【GRIP.1】「まちづくり」が基盤にあるCO2ネットゼロ-長野県小布施町の旅-
こんにちは。インパクトラボの戸簾隼人です。
この度、2022年5月29日(日)から30日(月)の二日にかけて、長野県小布施町への視察を行いました。
今回の視察は、滋賀県や長浜市へのカーボンニュートラルの社会実装のイメージを共有するため、エネルギー戦略を2019年より町単位で本格的に実施している小布施町の実践から学ぶ事を目的としました。
この取り組みは、2022年度立命館大学グラスルーツ・イノベーションプログラム(GRIP)に採択された「カーボンニュートラルを軸とした新たな教育パラダイムの創出・実践・量的評価指標の開発」(代表者:山中 司・立命館大学教授)の研究の一環で実施しています。(注)
小布施町のバックグラウンド
視察にあたり、長年関係人口創出に従事し、これからのエネルギー戦略における筆頭担当者となる大宮課長、井関次長にお話を伺うことができました。
小布施町について
小布施町は、栗菓子生産や葛飾北斎の肉筆画が残ることで知られています。人口10,000人程度で、面積も車で15分くらいで端から端まで行けるようなほんとに小さい街です。
一方、先進的な民間主導での街並み整備やまちづくりへの取り組みや、食の取り組みなどが「小布施ブランド」として成長し、年間100万人を超える観光客が訪れる地域でもあります。
小布施町は小さい町ながらも、地域活性化・観光等の側面から非常に強い行動力、及び魅力発信を行ってきており、最先端のまちづくりの事例として、全国に名を轟かせています。
積極的な外部接触機会の取り入れ
しかし他地域と同様に、今まで最前線で活躍してきた人材が高齢化を迎えている課題も持ち合わせています。
そこで、若手世代の育成、移住などを促進するために、単純に魅力を伝えるだけでなく、若手が考えるまちづくりへの思いを共有し、それを実現できる環境を整備する取組として「小布施若者会議」が2018年まで実施されてきたとのことでした。
現在はコロナの影響もあり、Zoom等のツールを利用した「小布施バーチャル町民会議」を実施するなど、新たな取り組みも始めているとのことです。
このような町役場だけによる実装だけでなく、小布施若者会議などの市民を巻き込んだ議論の蓄積や、役場内の体制強化、人材の確保等、外部の人たちが小布施にて活躍するための「余白」を残した活動支援は非常に参考になりました。
教育機関との連携
外部接触のきっかけは、小布施に興味関心のある社会人のみならず、教育機関・研究機関との連動も行っておられました。
特に面白い点として、市役所舎内に、長野高専、東大・慶応大などのサテライト施設やラボが設置されており、研究対象としても非常に注目されていることが明らかでした。
また、これらの施設が設置されている事もあり、確実に若者が地域に訪れるきっかけになっている事も、地方自治体にとっては魅力的な光景と感じられました。
台風災害をきっかけに変わったエネルギー観
一方、このような順風満帆に見える地方自治体にも、2019 年に発生した台風による水害の被害が発生してしまいました。
これまでの小布施町はエネルギーが町の方針の中心ではなく、まりづくりに注力していたものの、これから先に直面するかも知れない災害に対応できるレジリエンスを、カーボンニュートラル・エネルギーハーベストの視点から、実装に至るまで考える必要がある事を知らされたとのことでした。
実際の現地視察では、町内を徒歩・車で回りながら見学し、コンパクトシティであるゆえの取組の強みなど、現地でしか見ることのできない被災の復興の現状や地域による違いを知ることができました。
そこには、まちづくりに絡めた脱炭素戦略が明確にあり、市民と共に考える場所を設置することで、エネルギー関係もかなり早い段階で導入・検討が進んでいることが分かりました。
このような取組は、地域市民・若者に対するエネルギー・カーボンニュートラルに関する教育プログラムを考えるきっかけとなりました。
更に、現実的な落とし込みとして、ポテンシャルの調査は、実際に案内いただいた井関次長が殿を務め、専門家主導のもと、実行も視野に入れた小布施町環境グランドデザインとして、町の計画段階まで落とし込まれており、その先進性を伺うことができました。
視察現場
町に関する全体的なお話を伺った後は、町内で実装されている電源施設へのフィールドワークを実施しました。実際に設備導入されている場所だけで無く、様々な場所におもむき、『ここに再エネを入れたい』などと歩きながら構想を語ってもらいました。
特に小布施町は産業としては、観光、農業が主要であるため、再生可能エネルギーの導入において問題視される、景観に配慮したエネルギー戦略の方策などに力を入れているとのこと。
だからこそ、町内の町有地施設の屋根や小河川などの再エネのポテンシャルもわかりやすく、病院や工場、福祉施設、観光施設等、需要側もとても可視化されており、この地域の脱炭素化はかなりイメージがしやすかったです。
小型水力発電所
まず、見せていただいた所が、小布施町近くに流れる松川に設置された、小型の水力発電施設。総発電量として、約300世帯分とのことで周辺施設をすべてカバーできる状態にまでのものが導入されていました。
一方で、水力発電を行う際に必要となるタービンによって、町中で一定の騒音が発生しており、それによる苦情も発生しているとの事でした。
更にメンテナンスなどの維持の側面では、水源が鉄分を多く含むためか、錆などがシャフトに発生してしまい、コスト的に見合うかは非常に悩ましい状態であるとのご意見もいただきました。
このように、単体で見た時のコスト・受給判断ができたとしても、実際に現地導入した時にやっと気がつくような事象もあるため、導入を検討する際には準備を怠らず、あらゆる側面から検討することが重要だと分かりました。
景観配慮がされた太陽光パネル
前述したとおり、小布施町では観光産業が強い地域のため、一般的な太陽光パネルの設置は、小布施町がこれまで実施してきた景観条例などをもとに、エネルギー戦略においても、その景観を阻害しないことが重要視されているとのことでした。
顕著な例として、市街化地域における太陽光パネルの設置には瓦屋根の状態から大きく見た目が変わらないブラックパネルを用いることをガイドラインにまとめるなど、市側が積極的な策定を行っている点が特徴的でした。
また、前述の水力発電所も近くにあるとのことで、町営住宅の電力完全自給化を目指していけるポテンシャルもあるとのことでした。
脱FITの流れを自治体から加速する
民間の太陽光発電所は、現在のFITの変更などの影響も踏まえ、新たな取り組みとして、地域売電や地域消費などの取組へと移行することができるかを検討しているとのことでした。
特に公的施設への電源供給には、地熱発電や営農型ソーラー施設の整備、観光資源である温泉への木質バイオマスの導入など、これまで利用されてこなかった資源についても、有効に活用し、そのエネルギー自給の可能性を探りにいくフェーズにあるとのことでした。
人から変わるまちづくり
現地視察後、町内にて活動する地域おこし協力隊、起業家との意見交換会を行い、地方において関係人口を創出するための手法や、町民のエネルギーに対する意識変化などを伺いました。
実践としてのコミュニケーションワークショップや、新たな手法での関係人口創出などを伺い、地域内外を巻き込んだ、町内事業戦略も伺う事ができました。
その中で、エネルギー戦略以前に様々な専門家や活動を行いたい方が、ゆとりを持って実直に仕事をできる環境が小布施町にはあると確信しました。
特に小布施町のCO2ネットゼロの特徴として、まちづくりを徹底的に行ってきた基礎があったからこそ、災害時の危機感を実直に町政に取り入れ、それをエネルギー戦略として実行に繋がっているはずです。一方、規模が小さいからこそ脱炭素を行いやすいため、どの市町村でも活用可能なスキームとは違った見え方もしました。
今回、GRIPにて活動のフィールドとする長浜市は工場も人口も多く、山林も農地も市街地も観光地もあり、ただただ、小布施町と同じ方法で脱炭素を行う事ができるとは限りません。実際、サイズだけを見ても、30倍以上の差が有ります。それ故、長浜市の脱炭素には長浜市ならではの手法が必要になってくる事は間違いありません。
今回の視察で得られた知見も踏まえ、インパクトラボでは、滋賀県が主催するしがCO2ネットゼロワークショップにおいて、市街地での地域資源の発掘やカーボンニュートラルの可能性を探るワークショップを長浜市にて実施します。
ぜひ興味がある方はお申し込みしてください。