「木質バイオマスの熱利用」の優位性とは?
2月11日、12日に滋賀県長浜市木之本町と西浅井町で、環境省による「令和4年度教育機関と連携した地域再エネ導入促進及び地域中核人材育成研修」のワークショップを実施しました。
このnoteでは上記研修にて触れられた、「木質バイオマス発電の真実と熱利用の優位性」について、大学生である筆者の目線から体験談をお伝えします。
木質バイオマス=発電のイメージの先行
木質バイオマスという言葉自体、聞きなじみがない方がほとんどかと思います。
そこで、調査したいキーワードを入力すると一瞬でキーワードリサーチに必要な情報を収集してくれるツール「ラッコキーワード」を使用して、木質バイオマスを検索すると候補に挙げられるキーワードを調査すると、
そのほとんどが「発電」関連のワードでした。
一方で木質バイオマスの「熱利用」関連のワードはほとんど見られませんでした。
下の方に少し、デメリットと書いている部分があるのみです。私自身も当初はバイオマス発電という事は聞いたことがありましたが、バイオマスの熱利用については、全く知りませんでした。
木質バイオマス発電・熱利用の違い
そもそもバイオマスとは動植物などから生まれた生物資源の総称で、バイオマス発電はこの生物資源を、直接燃焼し、発生した蒸気でタービンを回して発電するものです。
木質バイオマス発電は、製材端材や木質チップを直接燃焼させて、発電させる「蒸気タービン方式」と、木質バイオマスをガス化して、燃焼させる「ガス化エンジン(ガスタービン)方式」に分かれます。
経産省からも、循環型社会の構築や農山漁村の活性化のための手段として、バイオマス発電がトピックとしてあげられています。
一方で木質バイオマスの熱利用は木質バイオマス資源を直接燃焼し、発生する蒸気や温水を利用する仕組みです。
久木さんの会社、ご自宅では木質バイオマス資源を燃焼させた際に発生する熱を、給湯や暖房に利用する「木質バイオマスの熱利用」を行なっています。
では社会的にはバイオマス発電ばかりが話題に上がる中、なぜ熱利用に着目するべきなのか、木質バイオマスの熱利用の優位性、木質バイオマス発電の問題について、研修にて学習したことを本noteで共有します。
木質バイオマスの熱利用の優位性
エネルギー効率の優位性
木質バイオマスの熱利用と発電はそもそも実施の規模感が異なります。熱利用の場合は丸太m3換算で利用規模感は、数100-1,000m3、発電を行う場合は70,000m3です。
ここで注目するのは熱利用の場合は少ない資源かつ、小さい規模でも木質バイオマスの熱利用を行うことができるということです。
一見、大規模に利用した方が良いと感じるかも知れませんが、これは「大規模に行わないと収支換算が不可能」であることの裏返しです。
エネルギー効率に関してはさらに大きく異なります。
木の持つ総エネルギー量を100%とした場合、木質バイオマスの熱利用を行う場合はそのエネルギー効率は約90%、一方の木質バイオマスの発電はエネルギー効率は約20-30%と、木質バイオマス発電をする場合は多くの余剰熱を捨てていることになり、熱利用と比較し、効率が極端に悪いエネルギー利用で有ることが明らかです。
コストの優位性
更に、熱利用を行う燃料ごとの比較を行った場合においても、木質バイオマスの熱利用は、熱量当たりの燃料価格は化石燃料よりも大幅に安い優位性があります。
一方で木質チップの製造コストを見ると、原料運搬コストとチップの運搬コストの合計である運搬コストのみで製造費の半分を占めています。そのため、大規模集約的な燃料製造には向かないことが、バイオマスの熱利用の難点とも言えるでしょう。
発電をする場合、一箇所の発電所を拠点として送電することが可能であるが、熱利用を行う場合はどうしても運搬コストがかかります。逆の発想をすると、木質バイオマスの熱利用は地域に根付くエネルギーになるのではないかということです。
つまり、木質バイオマスの熱利用は「小規模で行えて」「効率が良く」「地域での燃料生産が好ましい」と非常に地産地消のエネルギー政策に適していると言えます。
木質バイオマス発電の現状の問題
資源の輸入利用による本末転倒な実装
経済産業省が2012年7月から開始したFIT制度(固定価格買取制度)の対象の一つであったバイオマス発電。その影響でバイオマス発電所の建設が急速に拡大しました。
しかし発電所の立地場所を見てみると、海岸線に大規模な発電所が立地していることがわかります。このことが示すのは、資源の多くを輸入に頼り、輸入材を活用して発電を行っているということです。
バイオマス発電のメリットは地域の資源を活用し、エネルギーの地産地消で地域経済を活性化できる、循環型の地域社会の実現と言われています。しかし実情は、地域外どころか、海外に地域のお金が流出してしまっている状況です。必ずしもそうではありませんが、この状況では石油や石炭、天然ガスを使用する場合と変わらないとも言えるでしょう。
木質バイオマスの熱利用の実態と課題
日本国内のバイオマスボイラの導入実態
日本国内でも導入のための支援策が様々投じられていますが、導入数はわずか2,000台程度です。一方の木質バイオマスの熱利用などが盛んな欧州のオーストリアは30万台程度で、年間1万台のペースで増加しています。
ここで注目したいのは日本とオーストリアのバイオマスボイラの規格の違いです。
日本は業務用施設などでの利用が中心で、大型ボイラが多い一方で、オーストリアでは100kw未満の小型ボイラの導入数が半数を占めています。今後各地域で木質バイオマスの熱利用の普及を進めていく場合、小型領域でボイラ導入も検討する必要があると思います。
冒頭で言及したように木質バイオマスの熱利用は少ない資源で小規模で取組むことができるという特性を持っており、活かすべきだと考えるからです。
導入事業者・コンサル・プロ人材の不足
本プログラムでもあるように、地域での利用可能性が高いにもかかわらず、それをコーディネートできる人材がいないなど、地域人材が不足していることは重要な課題の一つです。
欧州ではバイオマスの熱利用がビジネス化しており、林業家が協同組合を作って木質チップ事業や地域熱供給事業に参画しており、「エネルギー林業家」という言葉があるほどです。バイオマス熱供給事業は地域の収益の柱の一つとなっており、魅力ある産業となっているのです。魅力ある産業であるからこそ優秀な人材が集まるのかもしれません。人材育成と産業発展を同時に行なっていく必要性を感じました。
最後に
これまで、木質バイオマスと聞くと真っ先に発電の事を考えてしまう方が多かったと思いますが、実は発電だけで無く、熱利用という利用方法あると言うこと、そしてその利点を考える機会になったのではないでしょうか。
木質バイオマスの熱利用は、地域に根付くエネルギーとしての優位性があると考えられます。
これまで述べてきたように、木質バイオマスの熱利用は少ない資源で小規模で行い、原料やチップの運搬費がかかってしまいます。だからこそ、ある一定の地域で人口や需要量、供給量といったキャパシティを把握することができた場合、木質バイオマスの熱利用の方が適していることを感じました。
※本noteは、株式会社バイオマスアグリゲーションのご提供の基、一般社団法人インパクトラボが作成いたしました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?