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インパクト会計の概念フレームワーク 公開草案(仮訳)【パブコメ募集】

IFVI(International Foundation for Valuing Impacts)はVBA(Value Balancing Alliance)とのパートナーシップにより、インパクト会計の概念フレームワークを開発しました。

インパクト会計は、企業や投資家が社会的・環境的インパクトを通貨の言語に翻訳し、財務パフォーマンスと比較できるようにする、世界的に適用可能で包括的なオープンソースの方法論です。

インパクト会計の概念フレームワーク(一般的方法論1)公開草案は2023年10月16日までパブリックコメントを受け付けています。

(訳者注1)
以下は仮訳であり原文との相違がある場合、原文を優先してください。翻訳に誤りがあることを発見された場合はお知らせいただけるとありがたいです。

(訳者注2)
・impact accountingをインパクト会計、impact accountsをインパクト諸表、impact statementをインパクト計算書と訳しました。impact accountsはimpact-weighted accountsと同義です。
・impact(s)をインパクト、affectやeffectは影響、influenceは影響力と訳しました。
・valuationは評価と訳していますが、金銭的な価値評価のことを指しています。
・entity(entities)は企業と訳しています。
・well-beingは幸福と訳しています。
・impact pathwayはインパクト経路と訳しています。いわゆるロジック・モデルのことです。
・序文(Explanatory Note)、脚注、付録、参考文献の翻訳は付けていません。

(訳者注3)
本公開物に含まれる情報は、財務上または法律上の助言を与えるものではなく、適切な資格を有する専門家のサービスに代わるものではありません。IFVIおよびVBAは、本公開物またはその使用から生じる一切の責任を否認します。


パブリックコメントのお願い(REQUEST FOR COMMENT)

フィードバックのための質問(Questions for feedback)

質問1-インパクト諸表の作成者とインパクト情報の利用者(5、20、22項)

本方法論は、インパクト情報の作成者は、企業自身又は外部の視点からの投資家であることを提案している。公開草案では、外部の視点からインパクト諸表を作成する場合、企業の一次データへのアクセスが制限される結果、限界が生じる可能性があるとしている。インパクト諸表の作成者の特定が困難である理由としては、インパクトマネジメントのための制度的インフラがまだ整備されていないことが挙げられる。企業が監査済みのインパクト計算書を作成し、公表する将来の状態を想像することは妥当であろう。あるいは、投資家がサステナビリティに関連した財務開示を利用して、外部の視点からインパクト諸表を作成し、広範な投資判断に反映させるという将来の状態も存在するかもしれない。今日、多くの意思決定が既にサステナビリティ関連情報によって行われていることから、インパクト情報の利用者はより明確に定義される。インパクト情報の利用者については、第22項で説明している。

インパクト諸表の作成者とインパクト情報の利用者をこのように分けるという提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。同意しない場合、インパクト諸表の作成者とインパクト情報の利用者をどのように区別するか。

質問2 - 忠実な表現における保守主義(32項)

忠実な表現の質的特性には、32項の一文が含まれ、不確実性がある場合のインパクト諸表に保守主義の原則を暗黙のうちに導入している。この一文は、「不確実性がある場合には、インパクト諸表の作成者は、プラスのインパクトの過大計上とマイナスのインパクトの過小計上を避けることを既定とすべきである」というものである。参考までに、保守主義の原則は、欧州サステナビリティ報告基準第1号「一般的要求事項」又はIFRS第1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する一般的要求事項」における忠実な表現という定性的特性には含意されていない。誤解を避けるために言っておくと、保守主義の原則(a principle of conservatism)は慎重さの原則(a principle of prudence)とは異なる。慎重さとは、不確実な状況下で判断する際の慎重さを意味し、保守主義とは、不確実な状況下で判断する際のバイアスを意味する。しかし、保守主義は、例えばインパクト・エコノミー財団の「インパクト加重会計フレームワーク」のように、インパクトに焦点を当てたフレームワークや組織で採用されている明確な原則である。この提案は、現状のインパクト会計が、一般目的の財務報告と同レベルの保証や監査、規制当局の権限、広範な採用の恩恵を受けていないことを認めるために盛り込まれたものである。そのため、特に保守的なバイアスをかけることで、より適切で忠実に表現されたインパクト情報が生み出されるのであれば、保守主義は望ましくないとは言えない。具体的には、インパクトを測定・評価する際に保守主義の原則を暗黙のうちに示唆することは、インパクトウォッシングや企業のサステナビリティ・パフォーマンスの過大評価の影響を打ち消すのに役立つ可能性がある。

主にインパクト諸表を正当化し、インパクトウォッシングに対抗するために、公開草案に保守主義の原則を含めることに賛成するか。賛成又は反対の理由は?

質問3-インパクト経路(51、52、53、54項)
インパクト経路は、企業によるインパクトを測定するための基礎的な枠組みであり、一連の連続した因果関係を通じて、企業の活動を人々や自然環境へのインパクトに結びつけるものである。インパクト経路の段階とその定義方法は、インパクトマネジメントのエコシステムにおけるフレームワーク、ガイダンス、プロトコルによって異なる。多くの場合、インパクト経路の様々な要素、特にアウトカムとインパクトの間の境界は、基礎となる現象の性質に依存している。場合によっては、経路の特定の構成要素が金銭的評価において暗黙のうちにモデル化されることもあれば、特定の構成要素が関連しないこともある。これは、例えば、企業の特定のサステナビリティのトピックや業種に依存する場合がある。

公開草案で定められているインパクト会計の目的のために、52項で提案されているインパクト経路のロジックに懸念はあるか。ある場合には、提案されているインパクト経路が適用できないシナリオと、提案されているインパクト経路のロジックをどのように変更するかについて記述してください。

質問4「インパクトの重要性と関連性の質的特性(25、26、27、73、74、83、84項)
インパクト諸表を作成するために、企業や投資家は、どのインパクトを含め、どのインパクトを除外するかを決定しなければならない。公開草案は、インパクトマテリアリティの観点を適用することで、このニーズに対応している。具体的には、インパクトマテリアリティは、関連性(relevance)の質的特性の企業特有の側面として定義されている。実務的には、インパクト諸表を作成する際、作成者がインパクトを識別し、測定し、評価した後、作成者は26項の3つの観点を考慮して、インパクトを含めるかどうかを決定すべきであることを意味する。3つの観点とは、以下のとおりである:

a. 利用者の意思決定に影響を与えるインパクト情報の能力;

b. 公共財としての透明性及び影響を受ける利害関係者に対する説明責任の必要性

c. 影響を受ける利害関係者に対するインパクトの重要性(significance)

第三の観点である影響を受ける利害関係者の観点について、インパクトの重要性はさらに27項で述べられており、インパクトの規模と範囲によって決定される。3つの観点を検討した後、作成者は、インパクトが重要であるかどうかを判断すべきである。インパクトの重要性は企業ごとに異なり、その結果、本方法論は、強制的な(mandatory)インパクトやインパクトの重要性に関する一律の閾値を含んでいない。

1. 上記の質問の段落は、インパクト諸表にインパクトを含めるか含めないかを決定する方法について明確な指針を提供しているという点で、明確に記述されているか。そうでない場合、どの段落が不明確であり、どのように明確性を高めることができるか。

2. 3.2節の関連性を判断するための3つの視点に同意するか。同意できない場合、どの観点に反対か。

3. インパクト会計の目的のために、インパクトマテリアリティを関連性の企業固有の側面として定義することに同意するか。さらに、本方法論に強制的なインパクトを含めないという提案に同意するか。


質問5 - その他のフィードバック
公開草案における追加的な提案について、反対または懸念があるか。例えば、本方法論の全体的な目的や構成、使用される参考文献、定義などに関するフィードバックが含まれる。その場合、どのような点で、実行可能な代替的アプローチと考えるか。

1.序論(INTRODUCTION)

1.1 文書目的(Document purpose)

  1. 本文書の目的は、International Foundation for Valuing Impacts(IFVI)とValue Balancing Aliance (VBA)のパートナーシップにより開発されているインパクト会計システム(方法論)を紹介し、その一般的方法論、すなわちトピックや業界を超えて一般化可能な方法論の構成要素の基礎を確立することである。一般的方法論は、いくつかの方法論ステートメントを通じて策定される。このステートメント「一般的方法論1」は、方法論の主要概念、原則、定義を確立するものである。

  2.  本方法論は、企業体(単体または複数)が人々や環境に与えるインパクトを測定し、評価するための世界的に適用可能なシステムである。本方法論の目的上、インパクトの評価(valuation)とは、特に断りのない限り、金銭的な評価手法の使用を意味すると理解される。

  3.  本方法論の内容は、インパクトマネジメントのエコシステムにおける主要な組織が公表しているフレームワークとプロトコル、及び管轄法域と国際的な基準設定主体が要求しているサステナビリティ関連の開示を基礎としている。

1.2 インパクト会計の長期ビジョン(Long-term vision for impact accounting)

 4. 本方法論の長期的ビジョンは、一般目的の財務報告に含まれる財務情報と同様に、企業や投資家の意思決定の基礎となるインパクト情報を生み出すインパクト会計(impact accounting)のシステムを開発することである。

5. 一般目的の財務報告とは対照的に、インパクト会計における情報作成者と情報利用者の境界線は明確に定義されていない。本方法論は、企業の経営者または投資家が、インパクト諸表(impact accounts)を作成するために適用できるように設計されている。インパクト会計は、企業が人々や環境に与えるプラスとマイナスのインパクトを測定するものである。インパクト諸表を作成するためには、当該企業の一次データにアクセスできることが有利であろう。しかし、本方法論は、投資家が外部の視点からインパクト諸表を作成するために、本方法論全体を通じて説明される潜在的な制限を考慮した上で、適用するのに十分な柔軟性を有している。

6. インパクト諸表は、インパクト情報を導き出すために使用される。インパクト情報には、表示を目的として分類・集計されたインパクト、インパクトの測定・評価に用いられた前提条件、データ、方法を説明する補足的な注記、インパクトを文脈化する定性的な解説が含まれるが、これらに限定されるものではない。インパクト情報の主な利用者は、企業の経営者、企業への投資家、企業のインパクトの影響を受ける利害関係者である。インパクト情報は、インパクトを比較可能で理解しやすい表現、特に貨幣単位で解釈することにより、意思決定に情報を提供する。インパクト情報は、異なるサステナビリティのトピック間、及びサステナビリティのトピックと財務のトピック間のトレードオフを検討するのに有用である。

7. インパクト諸表を作成するために、企業のインパクト諸表にどのインパクトを含めるかを決定するために、インパクトマテリアリティ(重要性)の観点が適用される。インパクトマテリアリティの観点から重要であるインパクトは、それが企業に対して重要な財務的影響を引き起こすか、引き起こす可能性があるかにかかわらず、インパクト諸表に含まれる。インパクト諸表から得られるインパクト情報は、企業のマテリアリティ評価プロセスに情報を提供するために使用することができる。本方法論におけるインパクトの金銭的評価は、企業の視点とは対照的に、インパクトを受ける利害関係者、又は社会一般の視点から行われる。

8. 大部分において、一般目的の財務報告と整合するように、インパクト諸表は、正確な描写(depiction)ではなく、見積り、判断、モデルに基づいている。インパクトを推定することしかできない場合、測定の不確実性が生じる。合理的な見積りの使用は、インパクト会計の不可欠な要素であり、見積りが正確に説明されていれば、情報の有用性を損なうものではない。高水準の測定の不確実性であっても、インパクト会計が有用な情報を提供することを必ずしも妨げるものではない。

 9. インパクト会計のビジョンが短期間で達成される可能性は低い。なぜなら、企業業績を評価する新しい方法を社会化し、理解し、受け入れ、実施するには時間がかかるからである。さらに、インパクトの測定と評価には限界があり、特定のインパクトを金銭的に評価しても、意思決定に有用な情報が得られるとは限らない。とはいえ、インパクト会計がその有用性を向上させるように進化していくためには、目指すべき目標を定め、起こり得る限界に絶えず対処していくことが不可欠である。

 10. インパクト評価を概念化し実施する方法は数多くある。本方法論は、金銭的評価を通じて、規模に応じたサステナビリティ関連データの比較可能性を促進する、信頼できる標準化されたアプローチを提供することを意図している。追加的なアプローチが、本方法論で開発されたインパクト算定システムをそれでもなお補完する可能性がある。

1.3 方法論の構造(Architecture of the Methodology)

 11. 本方法論は、相互に関連するステートメントのシステムを通じて開発される。

 a. 一般的方法論:一般的方法論は、インパクト諸表の体系と概念的要素を定めている。これには、目的、インパクト情報の利用者、質的特性、基本的概念、インパクトマテリアリティ、測定・評価方法が含まれる。一般的方法論は複数のステートメントから構成されており、このステートメントはその最初のものである。

 b.トピック別方法論:トピック別方法論は、サステナビリティのトピックレベルでのインパクトの測定と評価のためのガイダンスを含む。企業のインパクト諸表に含まれる特定のトピックに関連するインパクトは、インパクトマテリアリティの適用に基づいている。トピック方法論は、業種を超えて適用できるように設計されている。

 c. 業種別方法論:業種別方法論には、業種別レベルでのインパクトの測定と評価のためのガイダンスが含まれる。企業のインパクト諸表に含まれる業界固有のインパクトは、インパクトマテリアリティの適用に基づいている。業種別方法論は、あるトピックが業種間で一般化できない状況において開発される。

 12. トピック別・業種別の方法論は、標準化されたインパクト経路の形で公表され、データソース、測定・評価方法、企業の活動とインパクトとの関連性を確立するリソースに関連する追加情報を含む場合がある。

 13. 本方法論は、現実的な実現可能性と拡張性を考慮して設計されている。方法論自体とは別に、方法論の解釈と適用を支援するための追加文書を作成することができる。

1.4 一般的方法論の目的(Objective of the General Methodology)

 14. 一般的方法論は、方法論の基礎となるものであり、すべてのトピック別方法論および業種別方法論に適用されることを意味する。インパクト会計の概念や手法は、サステナビリティのトピックや業種間で本質的に一貫しているわけではない。一般的方法論は、一般化可能な概念的・方法論的構成要素に関するガイダンスを提供する。

 15. 一般的方法論の目的は以下のとおりである:

 a. 一貫した概念、定義、手法、原則に基づき、インパクト会計の体系を構築し、トピック別・業種別の方法論の開発を可能にする;

 b. 企業及び投資家が一貫したアプローチに基づきインパクト諸表を作成することを支援する。

 c. インパクト会計から得られるインパクト情報を利用者が理解し解釈することを支援する。

 16. 一般的方法論におけるいかなる内容も、トピック及び業種別方法論におけるガイダンスに優先しない。インパクト諸表の目的を達成するために、特定のガイダンスは、一般的方法論の側面から逸脱することがある。一般的方法論は定期的に改訂される可能性があり、一般的方法論の改訂が自動的にトピックや業種別方法論の変更につながるわけではない。

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