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お姉ちゃんは山へ芝刈りに

「昨日は、お姉ちゃんを置いて行ったから、
明日、また皮膚科に行きます」
「お姉ちゃんを置いて行ったから、イヤになった。
もう美容院には行きません」

この「お姉ちゃんを置いて行った」発言は、
そろそろ1年近く、
モモちゃんのイライラの
定番になっている。

実際には、
「(モモコがお姉ちゃんを)置いて行った」のではなくて、
モモちゃんとヘルパーさんの2名で、
美容院に行けるようになってほしかったため、
私が福祉タクシーに同乗しなかった、
ということだし、
いきなり乗らなかったわけじゃなくて、
モモちゃんにちゃんと説明をして、
モモちゃんが「大丈夫」と言ったから、
モモちゃんとヘルパーさんの2名で
行ってもらったのだけど、
もう何か月も、
その日のヘルパーさんに対する「うらみ」が消えない。

頼んだのは私だし、
モモちゃんも「いい」と言ったのに、
ヘルパーさんが、うらまれている。

なんだ、それ!
おかしいよ!

…なんて正論はモモちゃんには通用しない。
先週は同じようなパターンの
「皮膚科」バージョンが加わってしまった。
お買い物は私なしでも、
ほぼ問題なく行けるようになってきたんだけど。

私はモモちゃんに、
「お姉ちゃんは、一緒に行けないこともあるの」
「お姉ちゃんは、お仕事があるから」
「お仕事しないと、お金がないから」
「お金がないと、チーズが買えないから」
などと説明し続けてきたが、
イライラや「うらみ」があんまり続くので、
たまに頭にきてしまう。

「桃太郎のお話にも出てくるでしょ」
頭から湯気の出た私は
勢いでモモちゃんにこう言った。

「おじいさんは、山へ芝刈りに。
おばあさんは、川へ洗濯に。
同じことよ。
お姉ちゃんは、お仕事に。
モモちゃんは、お買い物に。
別々でいーの」

大好きな桃太郎の話を
例え話にしても、
モモちゃんが納得するわけがない。
私は言った端から、虚しくなった。
モモちゃんは、
よくわからなかったらしく、
黙ってしまった。

亡き母が歩けなくなって、
廊下を這ってモモちゃんのお世話をしていたときも、
「お母さんは足が悪くなったから、
手伝ったり、我慢したりしなくては」
という考えが、
モモちゃんの頭に浮かぶことはなかった。

こういう理由だからとか、
ほかの人もしているからとか、
そういうのは、なかなか通じにくい。
そうなると、もう、
「慣れるしかない」ということになってしまう。

今日の予定をメモしている私に、
モモちゃんが尋ねてきた。

モモちゃん「なんで、曲を紙に書いているの?」
私「お姉ちゃんは、忘れるから」

1分経過。

モモちゃん「なんで、曲を紙に書いているの?」
私「モモちゃんはちゃんと覚えているけど、
お姉ちゃんは、忘れるから」

1分経過。

モモちゃん「なんで、曲を紙に書いているの?」
私「忘れるより、
覚えていたほうがいいでしょ。紙に書くと覚えられるから」

1分経過。

モモちゃん「なんで…(続く)」

どのように答えても、
納得できない様子のモモちゃんだった。

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