同じ音のなかで育ち、まったく別の道をゆく
モモちゃんが聴きたがったり、
カラオケで歌いたがる曲を、
私はたいてい知っている。
私たちの子ども時代には、
「みんなが知っている曲や番組」がたくさんあった。
モモちゃんが「ババンババンバンバン!」と言えば
私は絶対に「アビバノンノン!」と返せるし、
ピンク・レディーのイントロクイズなんて、
たぶん今でもできるんじゃないかなあ。
当時のベストテン番組の第1位は、
ふたりとも、たいてい歌えると思う。
私の子どもたちが子どもだったころ、
うちのテレビで音楽番組が、
流れていることはほとんどなかった。
私はどのみち観る時間がなかったので、
どうしてなのかは、イマイチわからない。
子どもたちは自分たちで、
勝手に流行をつくり出していった。
最初は、ハリー・ポッターだったと思う。
なんといっても流行ったのは呪文だった。
テキトーな棒を杖に見立て、
「アクシオ、スプーンよ、来い!」なんて言って、
なんでも手元に呼んでしまう。
「エクスペクト・パトローナム!」と叫んで、
いろんなものを守護神にしたりした。
あげくにチェスまで始めた。
子どもたちは8歳ちがいなので、
プラレールやレゴブロックの組み立てなんかでは、
年齢差が歴然だったけど、
ハリー・ポッターやポケモンで遊ぶときは、
年齢なんて関係なかった。
子どもたちがもう少し大きくなったころ、
鋼の錬金術師が流行った。
家のあちこちで突然「錬成」がはじまり、
「も、持っていかれたー!」とか、
「食べていーいー?」とか、
「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」とかいって騒いでる。
そのうち鋼の錬金術師の
オープニングとエンディングばかりを集めたCDが
ダイニングでかかるようになった。
私とモモちゃんはたまたま、
音楽と絵がものすごく好きだったので、
モモちゃんさえ望めば今でも、
一緒に歌える歌が100曲だって200曲だってある。
モモちゃんの目がもうほとんど見えない今、
「お絵描き」をすることは、
もうないかもしれないけど、
スイカやバナナやブドウを描いて、
一緒に果物屋さんごっこをしたことは、
私たちきょうだいの、
かなり最初のほうの大切な思い出だ。
すでにおとなになった
うちの子どもたちは…というと、
ひとりは音楽が好きで、
耳コピ?した曲を
絶え間なく口笛やハミングで鳴らしているけど、
もうひとりは
「たしなみ程度しか聴かない」のだそうだ。
たしなみ…
周囲と話を合わせることができる程度、
大人の常識程度っていうことやね、たぶん。
同じ親に育てられ、
同じ音を聞き、
同じ風景を見て育っても、
きょうだいは、まったく別の道を行く。
当たり前のことなんだけど、
なんだか不思議だなあと思う。
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