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「だいじ」の法則が、わからない

ばこっ

どかっ

日曜日の朝だっていうのに、
2階から、
平和そうに思えない音が聞こえてくる。

「何ごと?」と、
アイカタくんは尋ねてくるけど、自分では見に行かない。

「ネコでしょ」と、
私はワニ目になる。
うちのにゃんこたちは悪事を働くとき、
鳴き声を出さない。
鳴くのは甘えるときだけ。

私はドスドスと階段を上がり、
「なにやっとるう~」と、低くうなった。
トイレに侵入したらしく、
トイレットペーパーが、あちこちに転がり落ち、
バリバリにされていた。

ネコたちは
離れたところから、じっと様子をうかがっている。
ゆうべ、
放ったらかしにしていたから、
その仕返しかもしれなかった。

ゆうべ、
モモちゃんは元気がなかった。
コッチも疲れていたため、
「まあ、のんびり過ごしたらいいかな」
としか思っていなかった。

モモちゃんはセキをしていた。
にもかかわらず、
またまたムリヤリ水シャワーをした。
私もアイカタくんも、
みんなあんまり具合がよくなかった。

「みんな、病み上がりだからな…」

私は、そうとしか思わなかった。

お風呂から帰ってきたアイカタくんが、
「モモちゃん、調子どう?」と尋ねた。
「うーん、よくも悪くもなくて、
セキはあるけど熱はない」と私は言った。

モモちゃんのセキの音が、
ダイニングルームまで響いてきていた。

アイカタくんは少し黙ってから、
「モモちゃんのセキ、ちょっとひどくない?」と言った。
そう言われてみて私はやっと
「そういえば歩くときフラフラしてるみたい」と言った。

のどが痛いとモモちゃんが言うので、
のどあめを渡した。

アイカタくん「いつもより、おしゃべりが少ないし、
声も小さいよね、苦しいんじゃないの?」
私「…そうかもしれない」
アイカタくん「あ、あれで測ってみたら?
指をはさむやつ」
私「あ、パルスオキシメーター?」
アイカタくん「それそれ」
私「どこにあるかな、しばらく使ってないからな」

2年前、
パルスオキシメーターで測ったら、
母の数値は、かなりよくなかった。
それでも母は病院に行きたがらなかった。
モモちゃんをどうするのかという問題もあった。
それを解決させるまでに、
時間がかかった。
あのときのことが、
私の胸を苦しくさせた。

パルスオキシメーターで測ると、
酸素飽和度は92だった。
母の数値を測ったとき、
私はケースに「標準値96~99」と大きくメモっていた。

92は、低すぎる。

私は厚生労働省が案内している
医療の電話相談窓口に電話してみた。
「エリア外です」と返ってきた。

検索してみると、
91なら救急車?
92なら救急車?
93なら救急車?
などと、いろいろ出てくるけど、
よくわからない。

私「どうしよう、救急車かな」
アイカタくん「うーん。そうしたほうがいいかも…」
私「おかあちゃんのときに、私、
数値を見て低すぎると思ったんだけど、
そこから病院に連れていくまでに、
かなりかかったんよね…」
アイカタくん「それなら、よけい、急いだほうがいいのかな…」

母はその後、内科を受診したものの、
数日後に帰らぬ人となった。
肺炎だった。

私はゾッとした。

アイカタくんに「ネコのこと、お願い」と言って、
モモちゃんの部屋に行った。
すでに夜。
私も救急車に同乗するとして、
いつ帰れるかわからない。

モモちゃんにも説明はするものの、
どこまで理解しているか、わからない。
翌日曜の朝には、
楽しみにしているテレビ番組が2つもある。
観られなかったら、
大騒ぎするだろうな。

入院になんてなったら、
つらいだろうな…

私はベッドに横たわっているモモちゃんの
頭をなでながら言った。
「病院に行って、みてもらおうか」
「救急車に乗るかもしれないけど、いい?」

モモちゃんは「はい」と言って、
なぜか頭をなでている私の手を
ポンポンと軽くたたいた。

しばらく私はモモちゃんの頭をなでて、
モモちゃんは私の手をポンポンしていた。

救急車に乗るのだと思うと、
モモちゃんがかわいそうだった。

モモちゃんは、ふいに思い出したように、
「ドラマを観る」と言いはじめた。

そういえば毎日観ている大好きなドラマを、
まだ観てなかった。
これを観ないで救急車に乗ったら、
暴れるかもしれない…と思って、
ドラマを再生した。

「セキ、しなくなったね」と、
アイカタくんが言った。

私「のどあめが効いたのかな。
さっき頭をなでていたからかな」
アイカタくん「両方じゃない?」

ドラマが終わると、
モモちゃんは「もう寝る」と言った。
ドラマの間もそのときも、
セキはしてなかった。
「明日の朝は観たいテレビがあるのよ」と、
モモちゃんは言った。

私とアイカタくんは
「とりあえず、救急車は必要なさそう」
と判断した。

今朝、
酸素飽和度も標準値になっていた。

こういうのが、この先、
何回も何回もあるんだろうなと思った。

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