真夜中のバトル
ゆうべ11時半くらいに、
モモちゃんの部屋に行くと、まだ起きていた。
「電気、消していい?」と尋ねたら、
「腕が痛い~」と言う。
めちゃくちゃ眠かったので、
「腕が痛いんだね…」と、あいまいな返事をした。
1時間ほど前に、痛み止めの薬を飲んだばかり。
痛いのは腕じゃないんだろうなと思った。
「お姉ちゃん、眠いから寝るけど、いい?」と尋ねたら、
「はい」と言ったので、
まあ、何とかなるかなと思って、2階に上がった。
12時過ぎ、
モモちゃんが「ぎゃーっ」と叫びはじめた。
いつもは明け方なんだけど。
どうしよう。
明け方なら、
アイカタくんは自分の部屋に行っていて、
ほとんど何も聞こえないらしいけど、
今、私たちが寝ている部屋は
モモちゃんの部屋の真上。
モモちゃんがまた
「ぎゃーっ」と叫んだので、
アイカタくんが起きたらどうしよう、
この人、ふだんは平和主義者だけど、
自分のペースを乱されると、乱心するからな…
私は、はらはらした。
するとアイカタくんが、
「ぐーーーー」と大きなイビキをかいた。
…。
十分にうるさいぞ、これ。
モモちゃんの「ぎゃー」と
アイカタくんのイビキが同時くらいなら、
本人のイビキのボリュームのほうが、
勝つんじゃないの?
私は息を殺して、次の展開を待った。
「ぎゃーっ」
「ぐーーーー」
素晴らしい!
感動!
ほぼ、同時やないの、この人たち。
このハーモニーは、いったい何なんだ。
「ぎゃーっ」
「ぐーーーー」
何回か聞いているうちに、
私は小さく吹き出してしまった。
笑ってる場合じゃないけど、
おかしいんだもん。
このままずっとハーモニーなわけないだろうけどな…
私はそう思いながら、ウトウトした。
「ぎゃーっ」と
「ぐーーーー」は、
ときどきズレたり
インターバルをあけたりしながら、しばらく続いた。
20分くらい経ったころ、
モモちゃんがトイレに行く音がした。
トイレから出たと思ったら、
階段の下から上へ、大声で叫びはじめた。
「起こしてーーーーーーーーーーー!」
「起こしてーーーーーーーーーーー!」
それまではモモちゃんが
扉が閉まった部屋にいたから、
「ぎゃーっ」のボリュームも
ギリギリ許容範囲だったけど、
階段の下から大声で叫ばれたら、
アイカタくんも
イビキかいている場合じゃないだろう…
私は仕方なく上着を着こんで、
1階に降りた。
モモちゃんと顔を合わせる気にもならず、
そのままダイニングルームで、
ぼーーーーっとしていた。
本当に何か言いたいのなら、
部屋から出てくるだろう…
こんなに寒い真冬の真夜中に、
「猛獣」の反乱に備えて待機…
私、かわいそうだな…
いーよいーよ、
これ、明日の記事のネタにしてやろっと…
10分ほど待っても動きがなく、
叫び声もやんでしまった。
私はそっと2階にあがり、
アイカタくんの寝ているベッドルームではなく、
子ども部屋のベッドに寝転んだ。
階段に一番近いから、
ドアを開けたままにしておけば、
モモちゃんの声が一番よく聞こえる部屋だ。
しばらく寝転んでいると、
家のどこかで、何か、物音がした。
どしっ
ばこっ
なんだ、なんだ。
モモちゃん、なんか投げてるのか…?
「にゃーーーーーーーん!」
「うおおおおおん!」
なんだ!
ねこぴょんずかっ!
そういえば子ども部屋の隣はネコの部屋…
よくネットで話題になる、
「真夜中の運動会」に悩まされることはなかったけど、
私に動きがあったので、
なにごとですか、と騒ぎだしたらしい。
寝ようよ、みんな。
ねこぴょんずは、夜行性だろうけどさ…
翌朝、
モモちゃんの部屋をノックすると、
「はあい」と元気な声がした。
扉を開けて「おはよう、大丈夫?」と尋ねると、
モモちゃんは普段どおりの顔をして、
「だいじょーぶ」と言った。
私「腕が痛いのは、どうなった?」
モモちゃん「痛くない」
何だったんだ、ゆうべのは??
アイカタくんに「おはよう」と言うと、
「おはよう、寒い、寒い、寒い」と、
エンドレスで寒がっていた。
何とか、
ずっと夢の中におられたらしい…
朝ごはんを食べるころ、
「腕が痛い~、採血、腕が痛い~」
とモモちゃんが言いはじめた。
今日は内科のお医者さんが来訪し、
血液検査をしてもらう日だった!
腕が痛いって、その前倒しだったの…?
放ったらかしておいて、
正解だったってことやんね??
真夜中のバトルは、
全員の不戦勝に終わった。
世界のバトルもぜんぶ、
全員が不戦勝で終わったらいいのに。