一緒にいても「シリメツ」はマネできない
モモちゃんがうちに引っ越してきて、
一緒に暮らすようになってから、
3度目の年末年始が近づいている。
私はモモちゃんのマシンガントークを
スルーするテクニックを身につけてしまい、
「明日よいお年だってタコヤキ」と言われても、
「そうね」で終わってしまう。
もう驚いたり、
疑問に思ったりするような、
純粋さは失ってしまった。
モモちゃん語というのは、
そういうものなんだから。
つまんないな、私。
家族くんは私よりピュアなので、
「バースデーケーキのピザがほしい」と
モモちゃんが言い出すと、
「誕生日はピザ?」と聞き返してしまう。
が、モモちゃんはそれを無視して、
「豚まんの 桃色のブタ!」と言うので、
「誕生日は桃色の豚まん?」などと聞き返すうちに、
モモちゃんは、
見たいテレビが始まるからと、
部屋に帰ってしまったりする。
ひとり残された家族くんから、
「今の、何だったの、結局?」と尋ねられるので、
私はウンウンとうなずいて、
「大丈夫、気にしないで。
うちの妹は、シリメツですから」と、なぐさめる。
ちなみにモモちゃんの誕生日は、まだまだ先。
世間一般ではどうかわからないけど、
うちの家で「シリメツ=支離滅裂」といえば、
ほめ言葉ではないけど、
けなし言葉でもない。
モモちゃん語が「シリメツ」というのは、
私たちが「日本人」というのと同じで、
ただ単なるカテゴリー分けとなっている。
ただ…
この「シリメツ」は、マネできない。
「黄色いネグリジェ着てるカルピスがほしかったから泣きだしたの」
なんて言われたときは、
メモっておかないと、
覚えておくことすらできない。
「お姉ちゃん、いま、牛肉?」
なんて話しかけられると、
洗っている食器を落としそうになる。
ぜんぜん関係ないけど、
私は生まれ落ちた瞬間からコロコロ体型(出生体重3800g)で、
小学校6年生のときに担任の先生から、
「子豚ちゃん」と呼ばれて泣いてしまい、
母が激怒して抗議したという経歴?がある。
先生は
「子豚って、かわいいですよ」と言い訳したらしいけど…
モモちゃんには
「お姉ちゃん、いま、豚肉?」
とだけは、言ってほしくないなあ。
なんといっても
モモちゃん語の怖いところは、
シリメツが突然、湧いて出るところだろう。
「あの炊飯器、怒ったのよ」
こういうのがダイニングにやって来て第一声だと、
モモちゃん語の経験豊富な私でも、
固まってしまう。
ヘルパーさんたちが対応に困るのも、仕方がないと思う。
「みじんぎりのタクシードライバー」
これもなかなかシュールでよろしい。
シリメツは
ヘン顔と同じで、
慣れると可愛いし、笑えるのもいい。
ただ、
ヘン顔とちがって、マネできない。
メモっておかないと、再生すら難しい。
12月に入ってすぐ、
「寒いな」と感じはじめたころだったか、
モモちゃんが自分の部屋からやってきて、
こう言った。
「明日、まふゆっていう名前でしょ」
モモちゃん語も、こういう、
ほっこりしたやつばっかりなら、
いいんだけどなあ。