西会津滞在日記②-言葉のちからで風が吹く-
前のnoteから長く間が空いてしまった。その後も関西に刺激的な旅に出かけたので、書きたいことは山ほどあるのだけど、時系列に順番に書いていかないと忘れてしまうので、1カ月前を振り返りながら。
(1か月前とは思えないほど昔に感じる。世の中ががらりと変わってしまった。卒業式も送別会も全部なくなった。ぽっかりとした春。)
さて、西会津滞在日記①では、受入先のアート拠点「西会津国際芸術村」のメンバーと一緒にいて感じたこと。今回は、その時お手伝いした「ほしぷろ」の演劇を見て、メンバーと話して感じたことをかく。
西会津出身の星さんによる「ほしぷろ」
「ほしぷろ」は西会津出身の星善之(ほしよしゆき)さんが主宰している演劇プロダクション。企画ごとに一緒に創るメンバーは異なるそうで、今回は青年団の名古屋さん(俳優)、野宮さん(演出)と3人で30分ほどの劇を2作品つくっていた。
こちらが今回の演劇のチラシ。タイトルも、イラストの雰囲気も、宮沢賢治の作品のチョイスも、見る前から私の好みにしっくりと合っていて、あまりイメージはできないのに楽しみだった。
1日目には一緒に西会津の街を歩かせてもらい、3人の朗らかな人柄にますますわくわくが募っていた。商店街歩きはやっぱりいい。
かくいう私の、演劇知識はわずかなもの。1年に1~2回、何かしら劇を見に行くものの、お客さんとして楽しむだけだった。ただ、きっとこの先私に必要な「点」になるような気がしていたので、この滞在を決めた時から、「演劇」の可能性、もっとメタ化や深掘りした演劇の、私にとって新たな見方が得られたらなあ、と楽しみだった。
背景を取り込むことと見えないものを見えるようにすること
そうして見た作品「よだかの星」と「シジマのはなし」は、衝撃的にすばらしいものだった。ゲネプロと本番、合わせて2回見たけれど、めちゃくちゃによかった。
新潟に帰ってから、いろんな人にこの演劇のすばらしさを説明したのだけど、イマイチ伝わらなくてもどかしかった。でもそれは私の語彙力のなさだと思っていたけど、たしかに直接体験しなければわからないものがあったのだと思う。
古い木造校舎に響く音だとか、においだとか、色だとか、セリフを言う体験だとか(お客さんにセリフを言ってもらう場面があった)、表情だとか静けさだとか…そういう直接的な五感で感じるなにかが感動に大きな影響を与えるのだと思う。だから、体験しないとわからない。西会津の地の力も関係しているかもしれない。
でも私なりに、なんでこの作品が良かったのか考えてみた。特に、オリジナル作品の「シジマのはなし」は脚本を書いた野宮さんのことを天才だと思った。
「シジマのはなし」は2人の俳優が動き回りながら台本を手に演じる、語りの劇。「シジマ」とは、わたしたちの誰もが知っている感情や空気感、瞬間のそばにいる、まるい生き物のようなもの。懐かしいような、せつないような、自分を強く感じたり心をつかまれたようなとき、シジマは「現れる」という。
誰も名前をつけなかったものに、名前をつけた。ヒトの内部にある感情や感覚を、外に出して、生き物に見立てた。それだけで、その後演劇を見た人の間で「シジマ」が共通言語になった。すごい。
見えなかったものが、見えるようになる。そんなふうになる体験を届けることができるなんて、すごい。言葉のちからだった。録音しておきたいくらい、「シジマ」を表す具体的な言葉たちがすてきだった。(忘れちゃったけど、縁日で迷子になったとき、冬のにおいのすべて、雪国のなか、とか、。)
たぶん、「シジマ」は心が豊かなときに、感性が磨かれているときにあらわれるのだろう。山や自然のそばにいるとき、大勢に流されていないとき。
あと良かったのは、その具体的なエピソードを、俳優2人の本当の体験や背景から選んでいること。「西会津」という背景もその中にちゃんと入っていた。それがなんとも自然で、わざとらしくなくて、押しつけがましくない。「自分」だけど、演じていることでちょっと「自分じゃない」部分もあるからだろうか。どれがうそでどれがほんとうなのかわからなくて、そんなことどうでもよくなるところがいいのかもしれない。
こんな作品のつくりかた、素晴らしいに決まっている。良いなあ。
いつしか私は羨ましくてたまらなくなっていた。私も、言葉でなにかを表現したいなあ。表現をもっと、日常に入れたいなあ。演劇のことももっと知りたい、新潟でもやりたい。
あふれる不器用な思いを、打ち上げでちょっと野宮さんにお話しできてよかった。いつか、一緒になにかできたら本当に嬉しい。
よだかの星も、コメディのような2人のかけあいと、よだかの悲痛なストーリーの対比が新鮮で、見ていて飽きなかった。ほしぷろの3人がまぶしくて、素敵すぎて、なんだか言葉がうまく出てこなかったけど、出会えてよかったなあ。
やっぱり演劇、すばらしい。人を違う世界に連れていける。明日から見る現実の世界も少しだけ変わる。心の中にさっと風を吹き入れる。栄養になる。じんわりと、人生に効いてくる。
アートとはなにか、演劇とはなにか、それを田舎・生活に溶け込ませるにはどうしたらいいのか。まだまだ、答えは見えない。問いながら考える旅は続く。ずっと続いてるのがいい。
(楽しい打ち上げの様子)