初対面
それから数日後、今日子は行政と連絡をつけ、某施設にはじめての面会に向かうことになったのだ。車中、2人で期待と不安を交えながらケンジについての想像を膨らまし、私達は町外れの施設へ向かった。暖かい日差しが降り注ぎ、時おり肌寒い風の吹く10月の午後であった。
施設で案内された小部屋で施設職員から今日は彼が遊ぶ姿を見学すると言うこと、彼はなかなかの悪ガキであることなどの説明を聞いてから彼の遊んでいる広場に案内されることになった。隣の棟から聞こえる子ども達の声と秋の日差しが混ざり合い、私の期待とセンチメンタルは絶頂を迎えていた。
案内された遊び場には男女数人の子どもたちが入り乱れ解放され、はしゃいでいた。私たちはすぐにケンジの姿を見つけた。写真で見るよりも小柄で威勢の良い男の子であった。早速おもちゃの取りあい、女の子に取られた腹いせにキックの連打、落ち着いている様子もなく中々の問題児のようだ。というか問題児では無い筈がない、施設で暮らしている子は皆大抵問題を抱えているのだ。彼の様子を遠くから眺めていたのだが、その時は男の子なんて皆そんなものだろう、自分も幼少期はそんな感じであったような、今思えば、彼を受け入れる為に自分なりに良い解釈をし、ある意味盲目になって彼を受け入れる準備をしていたのかもしれない。
長い不妊治療の末ようやく辿り着いたこの状況下で私はある種の魔法のような、洗脳されているような、彼を受け入れる為に私の思考から彼を疑ったり拒否するような懐疑的な考えは排除されてしまっていた。それが答えなのかもしれないが、私の浮遊した気持ちは確実に冷静さを失い、目の前で遊んでいるケンジの姿をただ茫然と眺めていたのだった。