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妹子の映画喫茶3『アンブレイカブル』2000年米映画

 以下は、以前私が「グラフ青森」という地方紙に連載していたエッセイの抜粋。昨日書いた、ブログの映画繋がりということで載せてみた。15年前の文で申し訳ないが、ひとつ。

私を激怒させる、ハリウッド最強コンビ

「Pink Tea Time」 2010年3.4月号

 最近は、弘前市のフリーペーパー「VITA」にも、コラムを書かせていただいている。前回書いた「Nozacc」の姉妹紙だ。人間、長く生きていれば何か良いことがあるものである。本当にありがたいことである。コラムは題して「妹子の映画喫茶」。独断と偏見と毒舌で、勝手に映画評を書いている。そしてその関係で10年も前から気にかけていた『アンブレイカブル』を、遂に見る機会を得たため、今回是非ここに感想を述べておこうと思いたったのである。
 2000年公開の米映画『アンブレイカブル』。主演はあの、ランニングシャツと胸毛が目印の大物俳優、ブルース・ウィリスだ。そして私がなぜ、この映画をずっと気にかけていたかというと、話はその前年(1999年)に公開された『シックス・センス』(B・ウィリス主演)にまで遡る…。

三月十一日
 見た後に、
「だから何なんだッ!」
と、絶叫したくなった映画は数限りないが、そんな映画の中の代表的な一本が、『シックス・センス』である。
 なんでもアカデミー賞では作品賞を始めとして全6部門にノミネートされ、同年の興行成績第3位の大ヒット。面白かった映画・感動した映画としてこの作品を挙げた雑誌の記事を何度か見たことがあるが、一体それはどうしてなのか? と疑問を持たざるを得ず、義憤さえ感じたものだ。ちなみにその年の興行成績第1位が『スターウォーズ・エピソード1』、第2位が『マトリックス』だ。
 『スターウォーズ』シリーズは、私の不得手とするところなので脇に置くが、今も語り継がれる面白映画『マトリックス』の次が『シックス・センス』だというから、仰天・激怒するのは私だけではなかろう。
 『シックス・センス』の激怒ポイント第一は、何と言っても最初のテロップである。
「この映画にはある秘密があります。まだ見ていない人には決して話さないで下さい。・・・ブルース・ウィリス」
というご丁寧な前置きがそれだ。だから我々も、
「ウオ~! ヒミツ~?」
 と期待に胸を高鳴らせて見るわけだが、その「秘密」が、始まって間もなくわかってしまうので、著しく興ざめするのだ。実際私の周囲の人の多くが、
「最初の5分で分かった。」
 と言っていた。これが最初の憤りである。
 第2は(これが根本的なこの映画の問題点であるが)、
「死人が見えるからって、それが何なんだ」
ということである。人生で一番怖いのは死人じゃない、生きている人間ですよということである。死んだ人間は「オレオレ詐欺」なんかしませんよ、「練炭殺人」もしませんよということである。
 そして第3の憤りは、主役のブルース・ウィリスである。この男、ただの胸毛オヤジなのに、のうのうと何十年もの間、イイ男のフリをし果(おお)せていることが、私は許せない。しかも、この男の出る映画は大抵つまらないのである。前評判は凄いが、膝カックンするほどつまらない。ならば勉強になるとか、マイレージが貯まる等の利点があればいいが、そういったモノが皆目無い。面白いのはせいぜい『ダイハード』シリーズだけである。

三月十二日
 私はそもそも、感動巨編と言われる『アルマゲドン』も全然駄目だ。人を泣かせよう、泣かせようとして作られたわざとらしさが興ざめなのである。実に安易である。犬を使った子ども向け映画とか、不治の病で余命何ヶ月といった映画と同じである。
 そしてB・ウィリスは、相変わらずイイ男のフリをして、颯爽と胸毛を風になびかせている(頭の毛はなびかせられないから)。ああ、何なんだこの男…と思っているうちに、ふと思い出したのが『アンブレイカブル』だったのだ。

三月十三日
 『アンブレイカブル』。
 公開当時、映画好きのAさんが、あまりのつまらなさに困惑し、仕事も放擲(ほうてき)して何度か私に愚痴っていた作品だ。それ故私も「いつか見なくてはッ」と固く心に誓ったまま、アッという間に10年が過ぎてしまったのである。
 さて、この10年前の映画を見るにあたり、私は最近の若者達の英語力のなさに、まず脱力した。
 レンタルビデオ屋に問い合わせたところ、彼らは一様に、突拍子もない応答をするのである。電話は2軒の店にかけ、直接店のカウンターで問い合わせたのは1軒であった。

私「〇〇年の米映画『アンブレイカブル』ありますか?」
店員A「はい、『アベーカベー』、ですね」
店員B「え、『アネカ・ブル』、ですか?」
 
 また少し前、谷崎潤一郎の『細雪』を古本屋で購入しようとしたときに、若い店員が、
「谷崎潤一郎という人の、『細雪』ですね?」
と言っていたから、この店員は谷崎潤一郎という名を、その時、人生で初めて聞いたらしかった。
 それはさておき。とにかく私はこの映画を見た。そして呆れた。

UNBREAKABLE=壊れない

 物語は、一度も怪我も病気もしたことがない(アンブレイカブル)な男=B・ウィリスが主人公。この男が自分の特徴、つまり「無病息災」な人間であったということに初めて気づき、愕然とするという、サスペンスホラーであった。
 本当に凄い。たまたまこの世に存在した、無病息災男。だから一体、何だというのか。たとえばドラえもんの正体を、サスペンスホラーで語られても、客は困惑するのである。
「なんで、一分で宿題出来ちゃったの?」
「だって、ドラえもんだからね」
「え? なんでB・ウィリスは死なないの?」
「だって、無病息災男だからね~」
で、終了ということである。
 『シックス・センス』も『アンブレイカブル』も監督は、M・ナイト・シャマランという男だ。そして驚いたことにこの監督、他に『サイン』(2000年米)という、かつて私が劇場で激高した映画も作っていたのである。
 M・ナイト・シャマラン。この男がB・ウィリスと組めば有る意味、無敵ということである。

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