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妹子の 映画喫茶 その1 『サンセット大通り』1950年米映画
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ウィリアム・ホールデン、グロリア・スワンソン、エリッヒ・フォン・シュトロハイム
高校生時代に『更級日記』(菅原孝標女著)を習ったとき、「なんでこんな、しょぼくれババアの愚痴なんか読まされるん だっ」と激怒したものだ。さらに、 老女の愚痴を九百年も読み継いでいる日本文学界を「バカじゃないのか」とも思っていた。 大人になって読み返したとき、「うーん『更級日記』...名作だ。 なぜもっと早く読まなかっ たんだっ!」という衝撃を受けた。図らずして自分も、しょぼくれババアの類に入っていたからである。 その時、年を取って初めてわかる人生の真実があるのだなぁと 思い知るに至った。
一方、米国映画の『サンセット大通り』だ。両方とも「老い」「女」がテーマの一つという 共通点はあるが、こちらは実に 恐ろしい。ホラー映画と言って いいかもしれない。
売れない脚本家ギリス(ウィリアム・ホールデン)が、借金取りを撒いて逃げ込んだ先は、ロサンゼルス郊外の寂れた大邸宅だっ た。そこに住むのはかつての大女優ノーマ・デズモンド(グロリア・スワンソン)と、献身的な老執事マックス。ギリスはノーマ が書いている脚本『サロメ』を 手直しするため雇われる。ノー マは銀幕復帰を目指しているのだ。住み込みで働かされるう ち、ギリスはノーマの「若い燕」となり...。
以前見た時も「ゲッ」と思ったが、最近、更に年を取ってから見たためか、「ゲゲゲッ」と 強く胸ぐらを捕まれる思いがした。この衝撃は『更級日記』の比ではない。やはりアメリカ人は肉を食うからだろう。魚や野菜の煮付けだけでは、これだけ 強烈な妄執は生まれないと思 う。その点だけで、私は日本人でよかったと思ったくらいだ。
それにしても、さすがビリー・ワイルダー。気の利いたセリフや洒落が随所にあり、完璧と言える脚本。私が一番忘れられないのは、ギリスがノーマを捨てる時のセリフだ。
「五〇歳なのに、二五歳のふりをしなくていい!」
私も二八歳のふりをしていたので、グサリと胸に突き刺さるのである。美と名声に固執するノーマ の執念も恐ろしいが、後にわかる執事の秘密はもっと恐ろし い。戦慄である。そして、ラストシーンのグロリア・スワンソン...。真夏の夜、ゾゾ~ッとしたい方には、必見の一本 だ。