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山並み

空港脇の直線道路は、真正面に山を据えている。毎日通る方々は、山の色を見ながら走るのだろう。日々に季節が移ろうのを感じるのか、それとも突如はっとするのか。
しかしこちとら、休日たまに通るだけだ。

舞台の書き割りのように、がらりと季節を変えた景色に、晴れた今日は殊に目を見張った。
先々週は吹雪に隠れていた稜線が、春の陽射しに濃淡を露わにしている。

2025、第二幕の始まりだ。


当方の田舎には、雪形という言葉があった。
溶け残った雪の形を、季節の目印にする。
「種まき爺さん」という、男性の形に雪が残ったのを確認したら、農業の開始の合図だそうだ。
「爺」と名のつく山だからなのだろうと思っていたが、今住むこの地にも、海側には「種まき爺さん」が現れる山があるそうだ。

切り尖った山の麓で生まれ育ったせいか、広々とした風景に、ドキドキとむず痒さが同居する。
圧迫感すらある狭苦しい山村の佇まいには、薄い嫌悪と、懐かしさと安心感がごちゃ混ぜになる。
どちらにも属さないから、中途半端な地方都市のこの街が居心地がいいのだろう。

そして休日毎に、ただ、稜線を遠目に眺めるために。
雪解けの泥だらけの車を走らせるのだ。



☆ヘッダー写真、お借りしました。いつもありがとうございます!

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