まどろみ
認知症義母の月イチ面会日。
コロナ全盛期に入居した義母とは、これまでいつも、入口近くの談話コーナーか、簡易無菌ルームでビニール越しの面会ばかりだった。
今回、初めての居室内面会。
初めて足を踏み入れる、彼女の住処。
陽当りの良い3階の部屋は眺めも良く、とても快適そうで清潔だった。
枕元には、CDプレイヤーと矢沢永吉。
壁には力強く「矢沢」と書き初めがある。
箸を持つ力もない彼女に、手を添えて書かせてくださったのだろう。
楽しい頃を少しでも思い出せるようにと、日々リハビリやレクレーションを考えてくださる様子が手に取るようにわかる。
少し身体を起こして横たわる義母。
久しぶりに、触れるほどの距離にいる彼女は、こちらの声にモゴモゴと口を動かした。
まだ聞こえてるよ、と教えてくれたようだ。
もう数ヶ月、目を開けた顔を見ていない。
面会時間が昼食→入浴の後になりがちで、ちょうど眠さのピークもあるだろう。
長いまどろみの中で、どんな夢を見、どんなことを考えているのだろうか。
おそらく瞼が開いても、こちらに焦点が合うことはない。
それでもまだ、わたしは貴女の反応を確かめに、声をかけに行くのだ。
返事をしない貴女へのトークが続かない、ヘタレ男どもを引き連れて。
☆ヘッダー写真、お借りしました。いつもありがとうございます!
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