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「ホステル日記」 ありがとうダニエル!

「この家出ていってくれない?2週間後に。」

シェアハウスのオーナーである香港人のダニエルからそう言われた。

たしかにキッチンで火を使っている最中にその場を離れたり、

パソコン作業をよく家で長時間していて、彼も同じ家に住んでいたから居心地が悪かったのかもしれない。

コロナが収まってきたから家賃の値段を上げて、もう他の人の入居が決まったのかもしれない。

本当の理由は分からなかったけど、とりあえず僕は次に暮らす場所を探す必要があることは確かだ。

「さて、これから泊まる場所どうしよう」


ニュージーランドに到着してすぐにtrade meというインターネットの掲示板を使って住む家を探した。一番最初に連絡をくれて下見をしに行った家だった。特にこだわりは無かったのですぐに「ここに住む」とダニエルに言って契約書にサインをした。

オークランドの中心部からバスで20分ほどの住宅街で、周囲10kmくらいがほとんど一軒家で近にあるMtEdenという観光地で有名な山を登ると、頂上からはずっと遠くまでの景色が見える気持ちの良い場所だった。

そのほかにも週末になるとオークランド最大級の(と言っても規模はそこまで大きくない)洋服を売るマーケットが開かれてオシャレな人がたくさん集る。「東京に比べたら何もない街なのにどこからそんな服をこの人たちは集めてきているんだろう」と思った。

週末になると彼がよく「教会に行かないか?」と誘ってくれたので予定が空いている週末について行ったりもした。

日本の外で生活していると、自分がカトリックやキリストではなく何も信仰していないというとよく驚かれる。

「結婚したら?死んだら埋葬はどうやってするの?」とある人から興味津々で聞かれた事があった。

そんな事は考えた事がなかった。そもそも無宗教の人は自分の結婚やお墓は何に基づいてやっているのだろうか。

ニュージーランドの教会にダニエルらと一緒に行く以前は、アメリカのアトランタ州で何回か白人のキリスト教会に行ったことがある。小さいお城のような外観で、中に入るとみんなが笑顔で迎えてくれた。

「教会にいる間はすべて忘れて良い人間でいよう」

そんな雰囲気が人々から伝わってきた。

みんなで立ち上がってギターやドラムの音に合わせて歌って踊ったりした。歌った後は周りの人と雑談をした。その頃の自分のつたない英語でも笑顔で嫌な顔せずに聞いてくれていた。

教会の中に入ったら笑顔でいるというみんなの暗黙の了解みたいなものがここまで自分のネガティブなエネルギーを浄化してくれるとは思わなかったと何度も感じた。


ダニエルに連れて行ってもらったここの教会はアトランタの教会と比べるとまったく教会っぽくなかった。建物の外観がまるでショッピングモールのようだった。中に入ると映画館のようになっており広いホールの中で舞台の上に立った人がキリストについて自分の体験談を語って、ショーを見て終わった。みんなでギターやドラムに合わせて踊ったり、ワインやクラッカーを回されたりはしなかった。


ダニエルには成人した子供が2人おり、どちらもシェアハウスの近くに住んでいる。

たまにその息子と娘がシェアハウスに来てダニエルと一緒に4人でご飯を食べた。ご飯だけではなく、休日になるとテニスやバトミントンをしに郊外へ3人と一緒に連れていってくれた。

家族で香港からニュージーランドに移住して週末はたまに家族で一緒に過ごすというスタイルはいいなと思った。自分も彼らの家族の一員になった気分だった。

こんな感じで、ダニエルは僕を家族の一員みたいに接してくれた。



何も遮るものがなく遠くまで見えるニュージーランドの空がオレンジ色になってきた時、僕は大きい山のような公園を何周も歩きながらこれからどこで生活をするか考えていた。

実はシェアハウスのトラブルはこれが初めてではなく、カナダのトロントに暮らしていた時もオーナーとトラブルになった事があった。

「家は寝て休息するための場所だから、そこにストレスを感じてしまうのは長期的に考えて精神的に良くない。また新しいシェアハウスを探してもトラブルになるかもしれないし、その事を考えるだけでストレスを抱えてしまう。じゃあ、そもそもオーナーの目が届きづらい場所に住めばいいのかもしれない。ホテルで暮らす?友達と一緒に家を借りる?でも金銭的にそういう余裕は無い。じゃあホステルは?….!!」

ニュージーランドに着いた当初、2週間だけホステルで生活をしていた。ホステルに泊まったのはそれが初めてで、毎日いろんな人が入れ替わりで入ってくるし、何より世界中の若い男女がたくさん集まるからエネルギーがあった。

その体験から、「せっかくワーホリに来ているから環境をガラッと変えて若い男女がいる場所に飛び込めば何かが起こるかもしれない。」そう思った。

20代以降になったらホステルに住むという選択肢を取っても中々若い人と馴染むのは体力が必要だったりするかもしれない。僕が今20代だからこそビザの残り6ヶ月間ホステルに住んでみるという経験もしてみるべきではないかと思った。

僕が世界中の旅人と毎日交流している生活を想像したらワクワクし出した。「これだ!」と確信した。

空がオレンジ色から濃いオレンジ色に変わって周りの景色が暗くなってきたが、それとは反対に僕の体の中はこれから起こることを想像すると明るくなってきた。

その日にオークランド中心部にあるホステルをインターネットで予約した。

ダニエル僕を追い出してくれて、これからの生活について考えるきっかけをくれてありがとう。環境を変えるきっかけをくれてありがとう。

後日、ダニエルに家の鍵を返しに行き、彼から「残りの生活楽しんでね」とか、僕に対する今までの印象を言葉で伝えてくれた。その後僕はホステルへ向かった。なぜ僕を追い出したのかは聞かなかった。時が経ちその人を思い返した時に最後の印象が悪いと、その人との出来事全てが印象の良くないものに見えてしまうということを僕は知っていた。


これがきっかけで僕はオークランドだけでなく、オーストラリアのシドニー、タイのチェンマイで合計約2年間ホステル生活をすることになった。

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