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ある時期やっていた仕事の話
一時期ある仕事をしていた。いわゆるビルメンテナンス業である。
社長はどうも俺の卒業校の先輩であるらしく、1対1で面接をしてくれて、俺は今までの人生で初めて正社員になった。我々は本当に色々なところに行った。「こんなどこかも分からないし携帯も圏外の山奥にこんな施設があったの!?」という場所も。
これは通常のビルメンテナンス業がやるのかどうかまでは分からないが、けっこうな数の自動販売機の修理・撤去・移動・設置などもした。中身が空の状態でも300kgほどあるものを時には壁との間に挟まれて押し潰されそうになりながら作業をした。業務内容は場所が毎日違うだけでそう変わるわけではなかったが、ある日などは我慢できずに、帰り際社長に「俺は今生まれて初めてじゃないかと思うくらい生きてるの楽しいです!」と言ってから帰宅したほど充実していた。
出張などもあった。いくつかの島をほとんど弾丸ツアーのように移動し、フェリーで食事をして眠るような、そこそこしんどい出張だった。
だが辞めた。
会社のグループLINEでみんなが見られるように退職届を出した。
確かに給料は安かったが、理由はそこではない。上司も俺がこれまで会った人の中で最も穏やかで優しい人だった。
理由は社長とある同僚だ。俺はある精神内科に睡眠薬さえ処方してくれればいいやという理由で通院していた。彼も同じところに通院していた。ある日社長に連れられ別のクリニックの医者と面談し、結果的にそこへ通院することにしたが、どうも俺には合っていたようで、俺の不眠症はかなり改善された。
「でも話してもいないのに、どうして俺が通院してると知ってたんだろう?」
その同僚ははずっと我々を売っていた。他の同僚たちががしたミスを、その日のうちに自らのミスは一切口にせずに全て社長に電話で話していた。そしてその密告を社長はずっと買っていた。
上司は最初からそのホットラインに気付いていたが、優しすぎるのでそれをずっと黙っていた。
彼は会社のボーナスについて「あいつはなしでもいいんじゃないですか?」と社長に進言し、俺を障害者枠で雇い、会社に利益をもたらそうとさえしたようだ。同じところに通院してるやつがよくも言えたもんだ。
俺はお前がつい最近婚姻した嫁さんと毎晩どういう体位でセックスしているかまで知っているぞ。話したのはほかでもない、酔って俺に電話してきて自分から全てを話したお前だからな。
以上が一時期やっていた仕事の話だ。
この後「いくら安かろうともちゃんと社員に給料を支払って、しっかりと保証をしてくれるというのは、いくら社長や同僚がカスでもそれだけですごいんだ」という事実に気付く。