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ある愚かな日々

 俺だって最初は「大学デビュー」というやつに憧れ、入学時色々と頑張ったが、3週間持たなかった。

 「もう全く心底1ミリだって向いていない」と思い知った俺は、すぐにこれまでと同じような日陰者に戻った。だから入学後数か月だか半年もしないうちにモテるモテないなど全く考えずに、いつも同じようなデザインで色や柄が違うくらいしか違いのない好きな服を着ていた(ちなみにアラフォーになってしまった今でも着ている服のサイズや系統はほとんど変わっていない)。映画の登場人物のコスプレ(処刑人やバックトゥザフューチャーのマーティのコスプレ)をして普通に構内を歩き、黒いPコートの襟を立てて全てボタンを留めてタートルネックにジーンズで踵が木製のブーツを履いたり、チェックのシャツの上に”救命胴衣”を着たりして普通に受講していたが、サークルの中には映画研究会だってあるというのに、誰ひとりとしてそれに気付いてくれずにちょっと寂しい思いをしたりもした。

 そんな迷走を続けるある日、俺は偶然知人の紹介で1学年上の生涯の友となる人物に出会った。彼は文学部の小奇麗な身なりの中肉中背の男で、俺がそれまで出会った中で最もきれいな女の人と一緒にいた。ジャズ研の1学年上だが同じ歳の女子が、偶然通りがかった彼女と同じ学部の友人である彼らに俺を紹介してくれたのだ。


 我々はすぐに意気投合し、道端で偶然会い、どちらが切らしていれば煙草を分けたり分けてもらったりしていた。しばらくすると俺は夜に時たま彼の部屋に遊びに行くようになり、彼がいる時はふたりでソファに座り、何時間も酒を飲み煙草を吸いながら色々なCDや映画やライブのDVDをこき下ろした。本当に楽しかった。また構内で出会ったりした時は邪魔にならないくらいの時間でおいとましつつも、しばらく3人でベンチに座りとりとめもない話をしたりもした。むろん彼女は彼の恋人であったがとても優しく、俺を邪険に扱うこともなく、俺たちと同じ話題で盛り上がり笑ってくれたりもするような、彼と同じく素敵な人間だった。

 ある晩などは俺と彼との2人でスーパーに行って安いワインと見切り品のステーキ肉を買い、調理を彼に一任し、俺はその間ケーブルテレビでOVA版ジャイアントロボを見ながら自分で持ち込んだ酒を飲んでいた。「できた」と言って運ばれてきたステーキは、何をどうしたのか、買った時よりも面積が大きくなっていて、笑いながらふたりでワインを飲みながら食べた。当時彼はある飲食店のイタリア料理の飲食店の厨房で、卒業旅行でヨーロッパを周遊するんだと一生懸命働きコツコツと貯金をしていた。当時から俺が知っていることはほとんど彼の方がよく知っていたというほどとんでもなく聡明で、しかも俺と同レベルのバカ話に付き合ってくれる本当に得難い友人だ。

 俺は大学に行ったこと自体はとても後悔している。途方もなく多くの金と時間を無駄にした。だがそこでの様々な人との出会いについては全く後悔していない。


 これは諸般の事情から本当は文学部に行きたかったのに経済学部に進んでしまい、経済学部にはひとりしか友人ができず、途中から他学部の講義に潜り込み外国語や社会学をかじったり、哲学の本ばかり読んで何度も休学・留年を繰り返していた馬鹿もいたという、それだけの話だ。

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