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あれを初めて見た日の話

 確か生まれて初めて雪が降るのを見たのは、20歳になってすぐぐらいだと思う。

 故郷でも最も標高が高い山の頂上まで登ると毎年のように降雪が見られ、写真も色々とあるようだったが、俺はいまだに登ったことはない。

 ある朝、一人暮らしを始めて1年にも満たない小さな部屋で目を覚ますと、歯が鳴りそうなほど急激に冷え込んでいた。テレビ自体は部屋にあったが、当時はテレビは今以上に見ておらず新聞も取っていなかった。

 日曜日だっただろうか?アルバイトに向かおうとマフラーを巻き、少し厚着をして部屋を出た。雪が降っていた。俺が生まれて初めて見た空から降ってくる雪だった。

 今でも覚えているし時々母親にも冷やかされるのだが、俺はかなり興奮し母親に「お母さん、俺生まれて初めて雪が降るのを見たよ」と電話をした。母は何と答えたのかまでは覚えていないが、たぶん「そりゃ雪だって降るでしょ」というような返答だったような気もする。

 アルバイトに向かう道を歩くのがうれしくて仕方がなかった。俺は雪が降っている中を歩くのも初めてだ。どうも天気予報では降雪が知らされていたらしく、すれ違う人はみんな傘を差していた。「へぇ、雪が降る時は傘を差すもんなのか」と妙に納得して歩いていたような気がする。そして俺はもちろん傘を持ってきていない。アルバイト先に着く頃には服も靴の中もぐしゃぐしゃに濡れていて、すごく寒かった。というそれだけの話。

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