ロングシュートの話 3
出される食事は病院食そのもので、外出許可をもらって外に出た時に買った調味料をアホみたいにかけなければ残したくて仕方ないような味だった。
でもこの温かいだけでロクに味もしない食事も全て食わなければ退院できない。
数人の人が会いに来てくれた。ママとママのパートナー、あと上の妹。何しろ食べる、眠る、文章を書く。たったそれだけしかできることがない。恥ずかしい話だが、会いに来てくれると言っていたけど誰も会いに来てくれないときは泣きそうになってベッドで布団をかぶっていた。
なかなか体重は増えなかった。約15kg以上増やさないと退院させてくれない。しかも暖房が入っているはずの病棟内でも夜になると冷え込んだ。確かママにお願いしてビックリするくらい分厚い靴下を何足か買ってきてもらったと思う。「どうして体重を増やして肥え太るために入院しているんだろう?」と思うこともあったが、どうにか病院食やお菓子を押し込んで約1月ほどを過ごした。
退院した日のことは絶対に忘れない。ママは俺を迎えに来てくれ、俺たちは近くの神社の境内で缶コーヒーを飲みながら肉まんを頬張り、快気祝いのようなことをした。イチョウはすでに色づき、境内にたくさん降り積もっていた。俺は「絶対に死んでやらない」とママと握手をしながら約束した。だからまだ生きていられる。俺のお母さんは2人いる。もちろんひとりは実の母親だ。でもあの街で俺を生き延びさせてくれたのはママだった。そんな話。
もうひとり命の恩人がいるが、それはまた別の話だ。