天国の扉を叩いていた頃
かつて数カ月間ほとんど固形物を摂取せず、コーラと酒だけで生活していたことがある。
結果栄養失調で一月ほど入院した。
あの時はどう考えても今よりずっとまともではなかった。コンビニに何か食べ物を買おうと入るが、「自分は何を食べたいのか」が分からず、店内を数周し、結果的に酒だけを買って店の裏で飲み干し、時にはその場で全て胃袋から路上にブチ撒けた。
その頃は時々知り合いと一緒にゲームをしながらスピリタスをキャップ1杯ずつショットしていたが、ある晩帰りの横断歩道で信号が青に変わるのを待っている間に意識を失い、気が付いたら朝で、起きたのは警察署のロビーの床だった。
そんなことを続けていたら体重がえらいことになってきた。その頃は自室に鏡は手鏡ひとつしかなく、どこに行こうとも絶対に鏡で自分の顔を見なかった。だがその部屋でたったひとつの鏡に映るのは、「痩せゆく男」そのものだった。さすがにこのままだと死ぬかもなと思った。
その頃俺はあるバーに足繁く通っていた。近所には駐屯地もあり、自衛官の方とよく飲んでいて、数回ほど家の玄関に配達もされた。
ある寒くなってきた時期の晴れた日曜日に、俺はバーのママに電話で呼び出された。彼女は俺に自分の車に乗れと言い、俺はそれに従った。連れていかれたのは病院だった。
俺はそのまま医師の診断を受け、いくつかの質問に答えた。「正直に言って、この椅子から立ち上がってうちに帰ろうとするだけでもけっこうつらいです」と自分の体調も述べた。先生はおっしゃった、「蛇行さん、あなたをこのまま帰してしまうとたぶん2週間も経たずに家で誰にも気づかれずに死にます。入院して下さい」
俺はママの真意を知った。そして本当にその椅子から立ち上がることさえ困難だったので頷くほかなかった。入院だ。
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