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yokoichi
ロングシュートの話 2
何しろ娯楽と呼べるものが何もないのだ。俺は頻繁に喫煙所に行き、煙草を吸いながらみなさんとしょうもない話をたくさんした。俺たちは治療するためにここにいるのだ。誰かの粗探しをし弾劾するためではないし、またそうするべきではない。
日中はナースステーション前のテレビを見ることもできなくはなかったが俺は見たくなかった。そこには車椅子に乗ったこれからミイラになるしかやることが残っていなそうなご老人方がとにかく同じチャンネルを音量最大でずっと見ていた。たまに処置室から大きな笑い声がした。おそらくは彼女は目の前の真っ白な壁と話すのが楽しくて仕方ないのだ。
だから本当に文章を書くには最適な場所だったと思う。何しろ数週間のある意味では「逗留」である。実際はそこまで優雅なものではなかったが。
その時に数週間で全ページを埋め尽くした俺の初めての小説のノートは俺の最後の領土だ。絶対に誰にもページをめくらせてやらない。これは俺のものだ。
そもそも栄養失調という2000年代にあるまじき感じで入院している。俺は190cmで60kgを切りそうなくらいまで痩せこけていた。つまり太らないと出られないのだ。
そこでお菓子だ。財布さえも没収されているが、ちゃんと午前中の間に注文票に名前と品物を書けば、購買部の人が正午過ぎに色々なお菓子を届けてくれる。だからここから出たいがために毎日めちゃくちゃお菓子を食べた。