ビスホスホネートとは
私自身におけるnote活用法の一つとして論文執筆の際に引用する文献の内容まとめ的なところがあります。
今後は引用できそうな本文中のsentenceや重要であると思われる内容をまとめて、後から見返しても論文内容がわかるようにしていきたいと思います。
今回は骨粗鬆症治療においてcorner stoneとなっているビスホスホネート製剤について詳しくまとめられている2008年の論文をまとめていきたいと思います。多用される薬剤ですが、根幹からしっかり勉強する機会はなかなかありませんでしたので、これを機に勉強していきます。
基本的な知識を以下にまとめてみます。それを踏まえた上で論文を読むことで理解が深まるものと思われます。
破骨細胞、骨細胞、骨芽細胞について
1. 破骨細胞(Osteoclasts)
役割: 骨を分解する細胞であり、古くなった骨や損傷した骨を溶解・吸収する役割を担う。これを骨吸収という。
特徴: 多核の大きな細胞であり、ミネラル(特にカルシウム)を骨から血液に解放する。
機能: 酸や酵素を分泌して骨基質を分解し、骨をリモデリングするためのスペースを作る。
BPとの関係: BPは破骨細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導し、その活動を抑制することで骨吸収を抑える効果がある。
2. 骨細胞(Osteocytes)
役割: 骨の中に埋め込まれた細胞で、骨の維持や修復に重要な役割を果たす。骨のセンサーとして働き、骨にかかる力を感知する。
特徴: 骨芽細胞が骨基質に埋め込まれた後、骨細胞に分化する。骨内に広がる網目状の構造を持ち、他の骨細胞や骨芽細胞とコミュニケーションを行う。
機能: 骨のリモデリングを調整し、骨の強度を維持するためにシグナルを送る。
BPとの関係: BPは骨細胞のアポトーシスを抑制し、骨細胞の生存を助けることで骨強度の維持に寄与する。
3. 骨芽細胞(Osteoblasts)
役割: 新しい骨を作る細胞であり、骨形成を行う。これを骨形成という。
特徴: 骨基質を分泌してカルシウムを沈着させ、骨を形成する。新しい骨が形成される場所に集まる。
機能: 骨基質のコラーゲンやタンパク質を分泌し、骨を強化し、新しい骨を作る。骨芽細胞の一部は骨基質に埋め込まれ、骨細胞に変化する。
BPとの関係: BPは骨芽細胞に直接影響を与えるという証拠は少ないが、間接的に骨吸収の抑制を介して骨形成を促進する効果がある。
まとめ
破骨細胞は骨を分解する役割を持ち、BPによって抑制される。
骨細胞は骨の内部で力を感知し、骨のリモデリングを調整する。BPは骨細胞のアポトーシスを抑制する。
骨芽細胞は新しい骨を作り出す細胞であり、骨形成に重要な役割を果たす。BPは主に間接的に骨形成をサポートする。
論文名:Mechanisms of action of bisphosphonates: similarities and differences and their potential influence
on clinical efficacy
Russell RG, Watts NB, Ebetino FH, Rogers MJ. Osteoporos Int. 2008;19(6):733-759. doi:10.1007/s00198-007-0540-8
・既にピロリン酸で示されていたように、ビスホスホネート (BPs)がヒドロキシアパタイト結晶の溶解を阻害する新しい特性を持つことが観察されたことは、BPsが多くの異なる実験モデルで骨吸収をも阻害することを示す研究へとつながった。
BPの構造について
・BPは、天然に存在する無機ピロリン酸塩の安定した類似体であり、その安定性は、2つのリン酸塩をつなぐ酸素原子が炭素原子に置き換わっていることによる。これにより、BPは生物学的分解を受けにくくなる。
臨床で用いられるすべてのBPは、共通の炭素原子を中心に2つのホスホン酸基(P-C-P構造)を持つ。
・P-C-P基は化学的加水分解だけでなく酵素的加水分解にも耐性があり、BPは体内で代謝物に変換されず、そのまま排泄される。
これらのホスホネート基に何らかの修飾を加えると、BPの骨ミネラルに対する親和性が劇的に低下し、生物学的な効力が低下する。
各BPsによって構造が異なり、骨親和性に差異を認めることが既報告で示されている。
N-BP分子はHAP表面でN-H-O水素結合を形成することができ、特にアレンドロネートのようなN-BPは、HAPの特定のヒドロキシル基と最適な角度と距離で結合し、高い結合親和性を示すことが確認された。
さらに、N-BPは隣接するカルシウム部位でも二重の結合を形成できる可能性があり、これにより結合親和性がさらに高まることが示唆されている。このような3次元的な結合の違いは、N-BPのHAPへの結合親和性の差異を説明し、それが結果として各BPsの薬理学的効果や臨床効果に影響を与える可能性がある。
BPsがHAP結晶に加えられると、理論的にはランゲミュア吸着等温線に従ってBPの結合量が予測されるが、過去の研究では製剤間で結合量に差があることが示されている。(pH 7.4:リセドロネート < ゾレドロネート < イバンドロネート < エチドロネート < アレンドロネート)
non N-BPとN-BPの作用機序は異なる。(詳しく説明されていますが、今回は省きます。。)
BPの作用基準
BPsは、破骨細胞だけでなく骨細胞や骨芽細胞にも影響を与えることが示唆されている。
非常に低濃度のBPsにおいても骨細胞のアポトーシスを抑制し、グルココルチコイドや機械的負荷によるダメージから骨細胞を保護することが確認されている。
骨芽細胞に対するBPsの直接的な効果は、臨床的に関連する濃度では示されにくいが、in vitroでは低濃度でも骨芽細胞を刺激することが確認されている。ただし、臨床で観察される骨芽細胞機能の変化は、主に骨吸収の減少を介した間接的な効果でありin vitroの結果がin vivoにそのまま反映されるわけではないと考えられている。
また、BPが骨芽細胞を介して破骨細胞に抑制因子を放出することが報告されているが、その正確なメカニズムはまだ明らかにされていない。
BPの骨への蓄積
BPの骨への蓄積により、骨代謝やターンオーバーへの影響が持たれてきた。が、骨吸収の抑制が治療開始後数日以内に新たな定常状態に達し、薬剤が継続的に投与されても抑制効果がさらに進行しないことが臨床研究でも一貫して観察されている。
時間の経過とともに抗吸収効果が進行しないことは、骨に埋め込まれたBPが不活性であることを示唆しており、少なくともその間は作用していないと考えられる。動物およびヒトの両方で、用量依存的な骨のターンオーバーの減少が観察されている。動物モデルでは、治療用量範囲内で長期使用後に骨のターンオーバーが継続的かつ進行的に減少するリスクがほとんどないことが示されている。なぜ時間の経過とともにターンオーバーの抑制が増加しないのかは未解明であるが、骨内の関連部位で活性薬物の定常状態が達成されるという概念と一致している。
BPの排泄
複数の異なる患者集団で実施された個別の研究報告によると、BPはin vitroでのミネラル結合親和性の順序と同様の順序でランク付けされている。臨床研究における、初回投与後24時間の尿中排泄の順位は、
ゾレドロネート(38%) < アレンドロネート(44%) < リセドロネート(65%) < クロドロネート(73%)であった。
この結果は、結合親和性の結果と一致しており、結合親和性が高いBPほど、24時間後の尿中排泄が低いことを示している。治療を中止した後も、BPのわずかな排泄が数週間、数ヶ月、あるいは数年にわたって測定されているが、骨からの持続的な放出によるものと考えられている。
骨粗鬆症におけるBPの役割
エチドロネートが最初に骨粗鬆症の治療薬として承認され、その後アレンドロネート、リセドロネート、イバンドロネート、ゾレドロネートと続いて承認された。
骨量を増加させ、脊椎骨折リスクを30~70%減少させる効果があり、その他の骨部位でも様々な効果を示している。
骨の質と強度
骨強度は骨折に対する抵抗力を与える性質である。実験および臨床研究によると、BPは長期使用後も骨の構造と強度を維持することが示されている。
現在までのところ、小柱骨の構造や皮質骨の多孔性を維持する点でBP間の違いは確認されていない。
しかし高用量のBPを長期間使用することで骨強度が損なわれる可能性が懸念されてきた。
BPが自然に発生する骨の微小亀裂の治癒を妨げる可能性がある。
骨粗鬆症治療におけるBPの長期使用(5〜10年)は安全であると考えられているが、非定型骨折のリスク増大の報告もあり、まだ不明な部分も多い。
各BPの骨折への影響
各製剤によって骨折リスクの低減への寄与は異なるが、観察年数も限られており長期的な予後はまだ不明なところも多い。
骨折予防効果の発現速度
X線で確認された椎骨骨折
リセドロネートとゾレドロネートがイバンドロネートよりも早く効果を示しており、アレンドロネートの12ヶ月時点での効果は不明である。臨床的椎骨骨折
リセドロネート、ゾレドロネートがアレンドロネート、イバンドロネートよりも早く効果を示している可能性がある。非椎体骨折
リセドロネートが最も早く効果を示し、次いでゾレドロネート、アレンドロネートと続き、イバンドロネートには効果が確認されていない。
BPの骨密度への影響
BP治療によるBMDの変化は、少なくとも2つの異なるプロセスから生じると考えられている。
① 治療開始後数ヶ月で見られる比較的迅速なBMDの増加は、「リモデリングスペース」が埋まることによるもの。
② 数ヶ月から数年にわたって起こる緩徐な増加は、既存の骨の更新が一方で、時間の経過とともにより重く石灰化されるため。
アレンドロネートとリセドロネートの比較 (FACT試験)
アレンドロネートとリセドロネートを直接比較したFACT試験では、BMDの増加がアレンドロネートの方がリセドロネートよりも大きいことが確認された。
しかし、BMDの増加量が、必ずしも骨折予防効果が高いわけではない。
例えば、Wattsらはリセドロネートによる3つの主要な骨折試験のポストホック解析を行い、BMDの大きな増加が必ずしも椎骨や非椎体骨折のリスク低減を予測しないことを報告している。
骨代謝マーカーの抑制と骨ターンオーバーの減少
BP間で骨代謝マーカー、特にNTXやCTXなどの骨吸収マーカーを抑制する程度には違いがある。
RCTにおいては、同じ化合物を異なる投与量で使用した場合、投与量が増加すると抑制効果が強くなることが一般的に示されている。
アレンドロネート、イバンドロネート、ゾレドロネートでは、リセドロネートよりも骨代謝マーカーの抑制が強いことが確認されており、FACT試験でもこれが確認されている。
しかし、CTXの50%以上の減少がさらなる骨折リスク低減に寄与しない可能性も示されており、臨床的な関連性は明確ではない。
作用の消失速度
治療を中止した後の効果の消失速度は、臨床的および実用的な理由から重要な違いを示す可能性があるが、直接比較試験はなく、BP治療中止後の骨代謝マーカーの変化を評価することは難しい。またBP治療を中止しても、ビタミンDとカルシウムの投与が続けられると、患者は骨代謝レベルがベースに戻らない可能性がある。
個別ビスホスホネート(BP)のプロファイルと臨床的特性の関連性
アレンドロネート
・高いミネラル親和性と中程度のFPPS阻害効果を持つ。
・臨床的有効性は細胞レベルでの効力よりも高いことが示されており、これはミネラル親和性の高さや骨への取り込み容量の大きさに起因すると考えられる。
・臨床でアレンドロネートとリセドロネートがほぼ2倍の投与量差で使用されるのは、ミネラル結合の高さが細胞活性の低さを補い、同等の薬理効果を達成できるという原則を示している。
リセドロネート
・高いFPPS阻害効果と中程度の骨親和性を持つ。
・臨床的に使用されるBPの中では、リセドロネートはFPPSの最強の阻害剤の一つであり、ゾレドロネートより弱く、アレンドロネートとイバンドロネートより強い。
・ミネラル結合に関しては、ゾレドロネートやアレンドロネートに比べて著しく低い親和性を示す。
・骨代謝抑制が他のBPに比べて少ないにもかかわらず、すべての骨折タイプに対して効果がある。→ミネラル親和性が低いことで骨全体に広く分布し、皮質骨や骨細胞ネットワークにまで到達できるためと考えられる。また、細胞における強力な阻害作用が、迅速な骨折予防効果をもたらしている可能性がある。
イバンドロネート
・FPPS阻害効果がアレンドロネートより強いが、リセドロネートやゾレドロネートには劣る。
・ミネラル親和性はアレンドロネートとリセドロネートの中間。
・椎体骨折には効果を示したが、非椎体骨折には効果が示されなかった。
→高いミネラル取り込み能力を持つことが関連している可能性があり、結果として非椎体骨折に関連する部位への分布が少ない可能性がある。
ゾレドロネート
・FPPSおよび破骨細胞に対する強力な阻害作用と高い骨親和性を持つ。
・高い効力と長い作用持続時間に寄与している。
・経口ではなく静脈内投与用に開発された唯一のBPで、骨粗鬆症の治療において年1回の投与が可能である。
・椎体骨折には迅速な効果を示すが、非椎体骨折や股関節骨折に対してはその効果の発現が遅れる可能性が示唆される。
結論
BPの臨床プロファイルは、細胞効果とミネラル結合特性の組み合わせによって決定されるようである。
異なるBPは多くの薬理学的特性を共有しているものの、各BPには独自のプロファイルが存在する。
これらの違いが臨床的に意味を持つ可能性があるが、まだ確立されたエビデンスは存在しない。
BPの薬理作用などは詳しく述べられていたが、臨床的なBMD上昇比較や骨折リスクのhead to headのRCTは存在せず、まだまだエビデンスレベルとしては弱い現状が述べられていました。
何も考えずにBPを選ぶ時代はとっくに終わっています。今後も勉強を続けていきたいですね。次回は骨粗鬆症の基本的なところをまとめていきたいと思います。