アフリカ探訪記 #1

過去に協力隊としての経験を「アフリカ探訪記」として、書き溜めていました。もう10年弱程前の文章で今読み返すと気恥ずかしさもありますが、気が向いたら更新していきます。

割とふざけた内容なので、他の記事とは趣が異なります。アフリカのザンビア（セレンジェ）で住んでいた異文化体験の記録です。

人形焼き

時折、携帯電話に知らない番号から電話がかかってくることがあり、いつもは無視を決め込むのだが、先日はあまりにもしつこいので、とうとうその電話を受けてしまった。すると、電話の向こうから女性グループの黄色い声が聞こえる。
私「あなたはどなたさんでしょうか。」
向こう「この電話番号は山中さんのですよね。」
私「ええ、そうですが。」
向こう「今日、みんなで会いにいっても良いですか。」
ここまできて、勘の鋭い私は合点がいった。彼女たちは町で私を見かけて興味を持った彼女らは私の番号を知っていて、それを呑気に教えてくれる大馬鹿野郎から電話番号を入手したに違いない。
私「ええと、あなたたちは美人ですか。美人ならお会いしましょう。」
向こう(何やら、こっそり相談している。)「はい、美人ですぅ。」
鼓膜が破れるかと思うほどの大きな声でそう言い放ったので、
私「よろしい。では、20分後にお会いしましょう。」
数十分たって、ノック音がきこえる。出て見ると、逆さにしても美人とは言えない、人形焼きみたいな顔の素朴な中学生女子グループがきゃっきゃ騒いでやってきた。何か話したい事があるだろうと、少し待っていると何も話さないで、小動物のように肩を寄せ合って、もじもじしているので、
私「君たち、今年国家試験を受けるのでしょう。」
人形焼き「そうです。」
私「じゃあ、その足元の植物の名前を言ってごらんなさい。試験に出るよ。」
すると、蚊の鳴くような声で「わかりません。」と言うので、あまりに可愛らしくて、可笑しくて仕方がない。

インド人の来校

先日学校へ突然インド人がやってきて、怪しげな色紙を3枚重ねくるくる巻き、それをハサミで切って、花を作るという芸を紹介したいと私に言ってきました。もちろん私は下端の林家ペーペーなので、勝手に判断することは出来ません。こんな下らないことのためにわざわざ首都から7時間もかけてこの学校にやってくるインド人を大馬鹿野郎だと思いましたが、「ほうれんそう」が私の信条であり、ザンビアのポパイと呼ばれている私ですから、いち早く上司に許可を取りに行かねばならないのです。ところが、私が確認している最中に、彼はボイコットよろしく就業時間に団欒している同僚たちに、「授業中だか何だか知らないけど、ホールに生徒を集めろ」と言いだしましたので、こんなに失礼なインド人はみたことがないと、同僚たちで阻止すべく知らんぷりを決め込んでおりました。ところが、私の報告を受けた校長が目を輝かせながら｢こんなことはめったとないことなのだから、やるべきだ｣と熱心に同僚たちを説得したので、とうとうインド人に舞台を用意する事になりました。めったにないことはそれだけで貴重なのだという意味不明の校長の判断で授業を中断させられ、さぞ嬉しい生徒たちは珍妙な衣装に着替えた用意周到なインド人を見て、大歓声をあげています。ここまで来たら、もうインド人の独壇場です。何をしても、何を言っても、その一挙手一投足に大騒ぎしています。一方、教師たちはこの無礼なインド人に睨みをきかせています。普段、授業に無断で行かない教師も周りの空気を察知して、一応怖い表情を作っております。えらい、えらい。パフォーマーとして、さんざん良い思いを堪能したインド人は最後に「この花の作り方が書かれた冊子と、花をつくるための色紙を25000クワチャで売る」と言いだしました。クワチャとはザンビアの通貨です。25000クワチャとは日本円で約500円です。毎日ポップコーンを休み時間に食べる生徒にとって、500クワチャでポップコーン一袋ですから、ポップコーン50日分です。こんな馬鹿げた値段はない、誰も買うはずがないと鼻をほじりながら同僚とせせら笑っていましたが、その直後に我々はそのインド人に殺到するおバカ丸出しの生徒を目撃する事になるのです。ベルトもネクタイも買えない一部の生徒も、その身体能力をフルに活かし、我先に列に入っていきます。お前は、まずその握りしめた金でベルトとネクタイを買え。
その冊子と色紙のセットにも限りがありますから、当然全員買えるわけではありません。残念そうに肩を落とす生徒と、意気揚々とそのセットを掲げ小躍りをする生徒。いやいや、実は君の方がラッキーなのだよ、少しだけ考えればわかる。
職員室へ戻り、同僚と共にインド人の見よう見まねでその子ども騙し花を作ってみると、なんとチラシで作れました。それをよせばいいのに、購入できた生徒に見せびらかしに行くというので、全員で大喜びで職員室を飛び出しました。あの悲しげな顔、そして買えなかった生徒の誇らしげの顔。うしし。

それでは、アディオス！