国税徴収法アラカルト(11)動産等の差押え(第三者が占有する動産等の差し押えを中心に)
前回まで、個別差押財産の種類の中でも、取り扱いが難しいとされる、債権について触れてまいりました。
ここで、すこしクールダウンの意味で、一旦、債権の論点から離れ、感覚的にイメージしやすい、動産等の差押えについて触れていきたいと思います。
動産等の範囲とは
一言で動産等といいましても、どのようなものが該当するのでしょうか。
徴収法56条において、「動産」及び「有価証券」(以下、「動産等」と表記します)とは、民法86条第2項第3項に定義する動産から、船舶、航空機、軽自動車等以外の自動車、建設機械及び小型船舶を除いたものを示す、と規定しております。
すなわち、かなりざっくりした言い方になりますが、おおむね家の中にあるようなもの諸々と考えてよろしいかと思います。
動産等の差押え手続とその効力
動産等の差押えは、徴収職員がその財産を「占有」して行われます(徴収法第56条1項)。
大事なのは、ここでいう「占有」についてです。感覚的にイメージしやすいとは思いますが、その意味を掘り下げますと、「徴収職員がその財産を差押えの意思をもって客観的な事実上の支配下におくこと」と解されているようです。
そして、この「占有」の定義からもイメージできるように、徴収職員がその動産等を「占有」したときに、差押えの効力が発生する(徴収法第56条2項)、と規定されております。
そうすると、よくテレビドラマの中の一場面として、ペタペタ張り付けている、あのキョンシー風の(!?)、あの赤い札は何なのか、ということになります。
あくまで、動産等の差押えは、先に説明しました通り、「占有」するということが原則。
実は、あれを張り付けることそのものが、差押えを意味するわけではないのです。
じゃああの赤い札の正体は!
では、あの張り付けている赤い札はなんなのか。
ただの演出?。
いえいえ、あれはあれできちんと動産差押え手続上存在します(多少のデフォルメはありますが...(笑))。
あれは、徴収法でいうところの「封印」「公示書」と呼ばれるものであります。そして、これらの文書が貼り付けられるのには、ある前提が存在しなければなりません。
それが、徴収法60条2項に規定されております。
(徴収法60条2項)前項の規定により滞納者又は第三者に「保管」(「」筆者)させたときは、第56条第2項の規定(動産等の差押の効力発生時期)の規定にかかわらず、封印、公示書その他差押を明白にする方法により差押えた旨を表示した時に、差押えの効力が生じる。
通常なら、家の中にある動産等を徴収職員が持って行ってしまうわけですが、諸々の事情で、家の中にそのまま置いておくケースがあります。
こうしたときに、滞納者や第三者に「保管」させる必要があるため、差押物件であることを明白にさせておくため、封印や公示書なるものが施されるわけです。
ところで、この保管させる相手に、さらっと「第三者」が含まれておりましたが、これはどのようなことでしょう。
第三者が占有する動産等の差押え手続
滞納者の動産等のすべてが、滞納者の家の中にあるとは限りません。
場合によっては、滞納者以外の者が、その動産等を預かっていることもあるでしょう。
最初にお話しておきますが、徴収法でいう「第三者」には、滞納者の親族等を含みません。
つまり、滞納者の身内は、ここでいう「第三者」にははいらないんですね。
そして、第三者が動産等を占有している場合は、その第三者が、その動産等を借りて実際に使用収益しているケースによることが多いかと思います。
よって、このような、第三者が預かっている動産等については、滞納者が直接所持する動産等に対する差押え手続に比べて、いくらかの配慮がなされています。
滞納者が占有している動産等については、徴収職員は、問答無用で、直ちに差押えることになりますが、第三者が占有している動産等に対しては、ワンクッションおかれることになります。
徴収職員が差し押さえようとした際に、その第三者が、その動産等の引き渡しを「拒まない」時は、直ちに差押えをすることができます。
しかしもし、第三者が引き渡しを「拒んだ」時は、直ちには差し押さえることができなくなります(徴収法第58条1項)。
ここで、一旦ある条件を吟味する必要が出てくるのです。
その条件とは、次の徴収法第58条2項に、こう記されております。
「前項の動産又は有価証券がある場合において、同項の第三者がその引き渡しを拒むときは、滞納者が他に換価が容易であり、かつ、その滞納に係る国税の全額を徴収することができる財産を有しないと認められるときに限り、税務署長は、同項の第三者に対し、期限を指定して、当該動産又は有価証券を徴収職員に引き渡すべきことを書面により命ずることができる。この場合において、その命令をした税務署長は、その旨を滞納者に通知しなければならない。」
要するに、ここで一旦、滞納者の財産について他に差し押さえることができるものはないか、再検討したうえで、それでもだめなら、やむなく、第三者の占有する財産を差し押さえるという段階を踏んでいくんだ、ということを意味します。
このように、第三者が借りて使用収益していた動産等が差し押さえられてしまいますと、第三者としては、なかば滞納者のいざこざに巻き込まれえた形となり、困ってしまうわけであります。
そこで、そのような第三者の権利保護をする意味で、次の①を選択することが第三者に認められています。
そして、①を選択しなかった場合は、徴収職員は、第三者に次の②を認めなければなりません。
① その動産等の占有の基礎となっている契約(動産等の賃借契約等)を解除すること(徴収法第59条1項)
② その動産等の占有の基礎となっている契約の期間内(最低でも差押日から3カ月)は第三者が使用収益すること(徴収法第59条2項)
そうしますと、上記②のように第三者が使用収益を続けることができる場合、先にでてきました「封印」や「公示書」を施すことが必要となってくることがわかるかと思います。
しかしそれでも、「封印」や「公示書」の施されている動産等を使用し続けることは、気分的に何か後ろめたい感じにさせられそうですね。