国税徴収法アラカルト(7)~「財産の調査」の流れの中で(一体何が差押えされるの!?)〜
前回、督促状が届いた後、「財産の調査」が実施されるに至った場合についてお話させていただきました。
ここまで来てしまうと、徴収職員は、滞納者の財産のうち、差押え可能な財産がないかを調査していきます。
さて、一体どのような財産が差押えの対象となってくるのでしょうか。
なんでもかんでも差し押さえられてしまうのか
一般的には、おそらく、高級そうな家財などの「動産」に、差押えのお札(!?)みたいなものを張っていくイメージがあるのではないかと思います。
もちろん、そのような「動産」も差押えの対象となります。
しかしながら、それだけではないのです。
預金口座、他人に貸したお金、もらってないお金などのいわゆる「債権」
大型のものであれば、土地、建物などのいわゆる「不動産」
などなど、様々なものがあります。
ところで、これらの財産があれば、税務署の徴収職員は、なんでもかんでも差し押さえることができるでしょうか。
答えは「否」であります。
差し押さえることができる財産には要件がある
まず、差し押さえることができる財産として、要件の通則があります。
以下の5つの要件を満たしたものでなければ、差し押さえることができません。
① 日本国内にある財産であること
すなわち、基本的には、海外にある財産は差し押さえることができません。
一部例外もありますが、ここでは詳細は割愛したいと思います。
② 滞納者に帰属する財産であること
この「帰属」のとらえ方が、大変重要になります。
滞納者所有の財産以外を差し押さえてしまっては、これは大きな問題です。
「帰属」の判定については、例えば下記のように、各財産別に目安が示されております。
(動産及び有価証券) 滞納者が「所持」しているかどうか
(登記や登録された不動産等、自動車他) 登記登録の「名義人」が滞納者であるかどうか
(未登記の不動産) 「占有」の事実、土地補充課税台帳等で滞納者に帰属していると認められるかどうか
(株式等) その「名義人」が滞納者であるかどうか
(債権) 借用証書等により、滞納者に帰属していると認められるかどうか
上記のうち、「動産」については、滞納者が「所持」しているかどうかの判断については、非常に悩ましいものがあります。
例えば、他人からたまたま借りていたものが、滞納者の自宅にあったようなケースです。
このような場合、実務的には、差し押さえるかどうかの判断は、徴収職員の裁量に任せられていることから、差し当たり滞納者が「所持」していると「推定」されるものは、次々と差し押さえていくことが多いようです。
つまり、捜索の現場で、滞納者が「それは自分のものでない」と主張しても、明確な証拠がない限りは、一旦は差し押さえられてしまう可能性があるということです。
この処分に対抗するためには、後日、「不服申し立て」をすることを通じて、反論していく形になります。
③ 金銭的価値を有する財産であること
差し押さえられた財産は、公売で換価されたり、債券等であれば、取り立てるなどされ、いずれにしても最終的にはお金にかわり、滞納国税に充当されるかたちになりますので、当然、金銭的価値を有していなければ意味がありません。
したがって、「なにかを行う権利」とか「何かをしない(不作為)権利」みたいなものは、どんなに強固な権利でも、差押えの対象外となるわけです。
④ 譲渡性があり、換金可能な財産であること
これは、上記③を理解できれば、イメージできるでしょう。
⑤ 差押禁止財産でないこと
課税法規でいう非課税の規定に匹敵するものです。
この差押禁止財産については、いくつかの種類があります。
差し押さえることができない財産、って何?
<1>一般の差押禁止財産(国税徴収法第75条)
この一般の差押禁止財産は、仮に、滞納者が了承しても、徴収職員は、絶対に差押えてはならないものであります。
これは、憲法第25条(生存権の保障義務)を考慮したものです。
そういう意味で、「絶対的差押禁止財産」などといわれることもあります。
徴収法75条に掲げられた主なものをあげると、主要なものとして、次のようなものがあります。
・滞納者及び滞納者の生計一親族の生活に欠くことのできない衣服、寝具、家具、台所用品、畳、建具
・滞納者及び滞納者の生計一親族の生活に必要な三月間の食料、燃料
・いわゆる実印などで、職業又は生活に欠くことのできないもの
・仏像、位牌など、礼拝祭祀に欠くことができないもの
・滞納者に必要な系譜、日記など
・滞納者又はその親族が受けた勲章その他名誉の章票
・滞納者又は滞納者の生計一親族の学習に必要な書籍及び器具
・滞納者又は滞納者の生計一親族に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
<2>給与等の差押禁止(国税徴収法第76条、77条)
給料の類や、社会保険制度に基づく年金の類については、
ある一定額は差押えてはならないこととされています。
その一定額の計算方法については、また別の機会に触れるとして、ここでは詳細は割愛させていただきます。
<3>条件付差押禁止財産(国税徴収法第78条)
代替財産の提供を条件として、滞納者の選択により、差押えが禁止されるものであります。
代替財産は、次の(1)から(3)の要件をすべて充足する財産である必要があります。
(1)その滞納税額を全額徴収できる財産であること
(2)換価が困難でない財産であること
(3)第三者の権利の目的となっていない財産であること
そのほかにも、差押えが制限されている考え方がある
前述の差押禁止財産の他に、差押えが制限される考え方があります。
<1>超過差押えの禁止(国税徴収法第48条①)
例えば、滞納国税が、100万円あったときに、財産価値が300万円の財産と500万円の財産を同時に差し押さえるような行為が、超過差押えです。
このような行為は、禁止されております。
<2>無益な差押えの禁止(国税徴収法第48条②)
超過差押えのケースとは逆に、例えば、滞納国税が1000万円あったとして、差し押さえた財産の価値がゼロであるとか、担保権がついていて、滞納国税にまでお鉢が回らないことが明らかな場合が、無益な差押えです。
このような、意味のない差押えも、やはり禁止されております。
だから、いたずらに心配しない
いくら徴収職員に強い差押え権限があるといっても、これまでお話しした通り、国税徴収法に規定された制限規定がありますから、やみくもに差し押さえるようなことはできないと思われます。
一方、先にも触れたとおり、滞納者に帰属しないものを差し押さえられてしまうなど、やはり超理論的にはいかない場面も、現場ではあるようです。
それでも、これらのような差押えに係る制限を、納税者サイドが知っておくことは、心理的にも安心、有用なことではないでしょうか。
次回から、もう少し個別具体的な差押えのケースを見ながら、差押えのイメージを深堀していきたいと思います。