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国税徴収法アラカルト(4)〜滞納処分に進まないようにまず検討しよう②「納税猶予制度」〜

前回、国税通則法第11条の「納期限の延長」について触れました。

まずはこの制度による初動対応が有効である点、
そして思いもよらぬアクシデントに際して、即効性を有する半面、
経済的困難に起因する問題の根本的解決にはならない点についても言及したところであります。

それでは、この経済的困難に起因する問題に対処するためには、どのような制度を活用していくことが考えられるでしょうか。

そこで次に、国税通則法第46条各項に規定されている、「納税猶予制度」の活用していくことが望ましいものと考えられます。

そもそも、納税猶予の制度が存在する理由はどのようなものでしょうか。

青山学院大学法学部教授の木山泰嗣先生は、著書「国税通則法の読み方」(P86~P87)の中で、次のように述べられております。

「租税法律主義(憲法84条)の下では、合法性の原則(租税法律主義の諸原則の1つ)があり、課税庁は法律(税法)どおりに税の徴収をしなければならないはずです。法律通りの税の徴収とは、法の規定をなくして税務署が納税者義務の減免をすることが許されないことはもちろん、法の規定なくしてその猶予をすることもできないことを意味します。」

このように、納税者からの納税猶予の要望に対して、税務署側が、これに応ずることを可能とするためには、法律に規定しておく必要があるためです。

課税面において、法律に規定するもの以上の課税が許されないことは、イメージできるかと思いますが、こうした「猶予」や「減免」においても、これを行うためには、法律の規定ありきで実施されなければなりません。

そして、このようにあえて規定されている制度を活用しない手はないわけであります。

この国税通則法第46条各項に規定されている納税猶予は、3つあります。

(第1項)災害により損失を受けた場合の納税猶予
(第2項)通常の納税猶予
(第3項)課税遅延の場合の納税猶予

ここでは、上記のうち、最も適用機会が多いと思われる(第2項)通常の納税猶予について、適用要件等を、見ていきたいと思います。
若干長くなりますが、制度を一通りを見ていく必要がありますため、お付き合いください。

1.適用要件

① 猶予該当事実が存在すること

 <猶予該当事実とは>
国税通則法第46条第2項に、下記の5つが規定されています。

一号 災害又は盗難の事実があったこと
二号 納税者本人又はその本人と生計一の親族が、病気にかかり又は負傷したこと
三号 納税者が、事業を廃止し又は休止したこと  (注)「やむを得ず」廃止又は休止するようなケースに限られるものと解されている。 
四号 納税者が、事業における著しい損失を受けたこと
(注)おおむね一定期間における税引前利益の半額を超える損失があることが一つの目安となるようである。
五号 前記一号から四号に類する事実があったこと
(一号、二号に類する事実)
 例えば、詐欺、横領、一定の損害賠償負担、売掛債権等につき貸倒の事実等が生じたこと等
(三号、四号に類する事実)
 例えば、労働紛争、親会社からの受注減少等が生じたこと等

② 納税者がその国税を、一時に納付する事ができないと認められること

③ 納税者より、猶予申請書、証明書類及び財産目録等が提出されていること
(注)この(第2項)における納税猶予については、他の項と異なり、申請の期限がありません。 
  
④ 「(第1項)災害により損失を受けた場合の納税猶予」の適用を受ける場合でないこと
(注)つまり、まず(第1項)の適用が可能な場合は、(第1項)が優先的に適用されることになります。そして、(第1項)の適用が 終わって、なお猶予が必要と考えられる場合、この(第2項)が適用される形となります。

⑤ 税務署長等が必要と認めた場合に、担保が提供されていること

  ただし、猶予金額100万円以下である場合や猶予期間が3ヶ月以下である場合、又は「担保を徴することができない特別の事情」がある場合、担保提供は不要とされています。
(注)ここでいう「担保を徴することができない特別の事情」とは、例えば、通則法50条に規定する担保財産そのものが存在しないことはもちろんのこと、優先抵当権等が存在して、回収見込のない財産しか存在しない場合、さらには、事業継続や生活維持が困難になる場合等を示しています。 
 なお、既に差し押さえた財産が存在する場合、猶予税額からその差押え済みの財産の額を控除した残額につき、担保を徴することになります。
 

2.猶予期間

  猶予期間は、原則1年以内の期間となります。納税者の状況を考慮検討し、納税者の申請があれば、さらに1年間延長できる可能性があります。
 つまり最長で2年間納税が猶予される余地が生まれます。
       なお、「(第1項)災害により損失を受けた場合の納税猶予」の適用と組み合わせると、最長3年間納税が猶予されることもあります。
 

3.納税猶予による効果

(1)分割納付
  税務署側は、納税者の財産事情等から判断して、合理的かつ妥当と思われる金額に分割した金額により、猶予期間内に、納税者に納付してもらうことが可能となります。

(2)延滞税関連
  猶予期間中は、延滞税軽減措置あります。

前記①の猶予該当事実の一号二号に該当する場合
    ⇒延滞税の全額が免除されます。
前記①の猶予該当事実の三号四号に該当する場合
    ⇒延滞税の額の1/2が免除されます。

(3)差押え等えの影響
  猶予期間中は、各種追加で差押え等の滞納処分が実施されることは制限されます(ただし、交付要求という手続については除かれます)。
 もちろん、既存の差押財産が「換価」されることも制限されますが、天然果実、差押債権等の第三債務者からの給付物そして金銭そのものについては、換価や充当が制限されません。
 そして、場合によっては、納税者の申請に基づいて、既存の各種差押えが解除される可能性もあります。
 
(4)時効の中断、不進行
  納税猶予の期間中は、その猶予税額に係る徴収権の消滅時効は、中断し、進行しないことになります。
 これは、納税者側が、猶予申請をすることにより、納税債務を「承認」したと考えられるからです。

  4.納税猶予の「取消し」「期間の短縮」

  注意しなければならないのは、一旦、納税猶予が認められたとしても、場合によっては、税務署長等により、その猶予を取消しや、猶予期間が短縮されてしまう可能性がある、ということです。

 取り消し等が行われるのは、以下a~fの通りです。

 a いわゆる「繰上請求事由(客観的要件)」 に該当事実が生じた場合 
  (国税通則法第38条第1項一号から六号)

  つまり、「納税猶予できない緊急事態が発生した」ということです。
  
  一号から六号まで、以下の6つの事由があげられます。

(一号) 納税者の財産につき、「強制換価手続」が開始されたとき
(二号) 納税者死亡に伴い、相続人が「限定承認」したとき
(三号) 法人である納税者が「解散」したとき
(四号) 信託財産責任負担債務の「国税に係る信託が終了」したとき
(五号) 納税者が、「納税管理人を定めない」で、法施行地に住所を有しなくなったとき
(六号) 納税者が「偽りその他不正の行為により」、納税を免れようとし、または、不正に還付を受けようとしたとき

 b 分割納付を定めて猶予期間を定めた場合に、その分割納付金額を納付しないとき

 c 税務署長等の、担保変更命令等に応じないとき
 d 新たに、その猶予税額以外の国税を滞納したとき
 e 偽りその他不正な手段により、納税猶予申請がなされたことが発覚したとき
 f 例えば、事業好転等により、納税猶予の必要がないと認められたとき

 ただし、上記aの事由の場合以外については、納税者側に、なぜこのような事態になったのかということについて、「弁明の機会」が設けられています。(国税通則法第49条第2項)
いきなり、納税猶予のハシゴを外されることのないように、納税者に配慮された規定振りかと思われます。


以上のように、猶予該当事実に掲げる不測の事態が生じた際には、落ち着いて、本制度を積極的に活用していくことが、望ましいものと考えられます。

申請手続が、難しそうと思われるかもしれませんが、その際には、お近くの税務署または税理士にご相談いただければと思います。



 


 


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