境界面との距離感
ヤンデルさん:
先日は師走の慌ただしい中、お返事を頂きありがとうございました。
前回のお返事を読み、どうやら私はいくつか大きく思い違いをしているようだ、と背筋が伸びる思いでした。
頂いたメッセージを自分なりにまとめると以下のようになりました。
・医療には、専門職セクター、民間セクター、民俗セクター(漢字が間違っていました…ちゃんと調べてから発信しなくてはいけませんね)という3つの異なるシステムが存在する。
・医療者が発する医療情報は基本的には専門職セクターの文脈になる。
・専門職セクターが医療システムの唯一正義ではない。むしろ有効に機能する場面は限られている。
・どのセクターに主軸を置いているかによらず、どの人にも専門職セクターを利用したい瞬間はきっとある。
・専門職セクターの人に出来ることは、皆さんが専門職セクターを利用したい瞬間にそなえて、声が届きやすい場所で待つこと。
まずは、自分の文章があくまで専門職セクターからのものなんだと認識しました。
そしてヤンデルさんの文章と見比べたとき、自分の文章はどうにも他セクターの人に届きにくい場所にいるなぁと痛感しました。
自分が一般の方向けに、と思って書いた文章は、振り返ってみると専門職セクターに親和性ある人にどうにか届くかもしれない程度の文章のようでした。
ただ、自分の現在の位置と、本来立つべきスタンスが明確になったのは今回のとても大きな学びです。
『専門職セクターの立ち位置から、他のセクター重視の人たちが専門職セクターを利用したい時に備えて待つ』
これを生かして、次回は少し距離を縮めることが出来るかもしれないと感じています。
他セクターとの境界面に近づく第一歩として、本を手に取り、民俗セクターについて知ることから始めました。
ご紹介頂いた『急に具合が悪くなる』は紙の本しか見つからず、取り急ぎ国際発送を注文したのですが、まだ手元に届いていませんでした。(こういうことがあるとイチイチ日本が恋しくなってしまいます)
以前ヤンデルさんが並んでオススメされていた『野の医者は笑う』は電子書籍で購入可能だったのですぐに買って読みました。
お陰様で民俗セクターの医療システムがどういうものか、複数の具体的な事例に触れることが出来ました。
ページをめくるごとにオーラや潜在意識、スピリチュアルにシャーマニズム、アロマにパワーストーンといったセラピーが様々組み合わせや雰囲気で登場し、正直に言って、前回のお返事の中で想像していた枠組みとは全く別物でした。
印象的だったのは、紹介される民俗セクターの『病み』に対する解釈や治療のアプローチは明らかに専門職セクターのそれとは違うものの、確かに民俗セクターによって救われている方がいるという事実がリアルに書かれていた点です。
私の主軸が民俗セクターにないせいで、「今あなたの気分がちょっと落ち込んでいるのは、あなたのお父さん方のおばあさんの霊が原因です」と言われてもピンとはこないのですが、かといって現代医学がちょっぴり憂鬱な気分になる原因を十分に説明できていると言えるでしょうか。
そういった状況において、ある人にとっては病院にかかるよりも、スピリチュアルなことに原因を求め、それをどうにかしたほうが気持ちが晴れやかになったり、前向きになったりするかもしれません。
専門職セクターが有効な治療を提示したり、病みの原因を説明することができるのは、あくまで限られた範囲であることを忘れてはいけないと思いました。
また、「民俗セクター=怪しいトンデモ医療」という単純な構造では決してないということは、私にとっての警鐘となりました。
前回のお手紙では、ヨーグルトキノコとか七面鳥のトリプトファンとか効果がよく分からないものを、盲目的に民俗セクターに押し付けてしまったことに、とても反省しています。
そういえば、先日少し話題になった血液クレンジング療法や自由診療で行われる一部のがん免疫療法など、専門職セクターの雰囲気をまとっているにもかかわらず、治療効果のはっきりしない医療行為も残念ながら存在します。
どのセクターに属するかということと、効果のある治療(どういう結果をもって治療が効いたとするかの議論は必要かと思いますが)が提供できるかどうかということは全く別の話である事を覚えておかなくてはいけませんね。
『野の医者は笑う』との出会いを通して、医療人類学という分野に強い興味が沸きました。
年末年始に時間を作って、『急に具合が悪くなる』やその他関連図書を読んでみようと思っています。
さて、2019年も残すところ数日となり、今年一年を振り返ると、良いことも悪いこともいっぱいあり、なんとも振り幅の大きな年でした。
その中でも、この『悩むな、脳め』を通して、自分一人では訪れることのなかったであろう景色を沢山見ることが出来たことは、今年の最も良かった出来事の一つです。
色々なところに連れて行って下さり、本当にありがとうございました。
年末年始の慌ただしい時期ではありますが、お体にお気を付けて、良いお年をお迎えください。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
(2019.12.28 タク→ヤンデルさん)