海外進出でのラップは母国語か英語か。
7月1日にリリースしたBE:FIRSTとATEEZの”HUSH-HUSH”がトリリンガル曲だということで、ネットニュースなどで言及されていることについて、以前から考えていた、海外進出する時に歌うときの言語は英語が正解なのか?それとも、母国語+英語という、通常運転でいくことがいいのか、ここで私なりの考えをまとめておきたいです。
今回のBE:FIRSTとATEEZのコラボはおそらくもう2年以上前から、SKY-HIの中では考えていた構想だったのではないかと思う。私の記事でATEEZについて語ったものがあるので、そちらをご覧いただきたいのですが、2021年にMnetで放送された、まさしくレジェンド歌番組、Kingdom Legendary War(6組のBoys Group出演)に2018年デビュー組として出演したStrayKidsとATEEZ。
あの番組をみれば、K-POPへの印象が一気に変わるだけでなく、素直に彼らの熱いパフォーマンスに圧倒され、今まで見たことのないものを見たという感触を味わいました。
あの番組で最終的に1位だったStrayKidsと6位だったATEEZが今2024年K-POP第四世代のトップをひた走っていることを思うと改めてすごい番組だったと思う。同じ番組を見て同じような感想をXで以前SKY-HIはコメントしていて、その翌年にはStrayKidsの3RACHA (Ban Chang, Changbin, Han)の3人とコラボ楽曲を制作、SKY-HIがFeaturingということでリリースしています。すでにこの時にトリリンガルで楽曲制作が当たり前に自然だったと3RACHAとの対談動画で話しています。
この時期はコロナだったので、実際に現場で一緒に制作せず、音源を送ってお互いにやり取りを重ねたそう。MVはゲーム映像になっていて、4人がMVに出演することすらなかった、ある意味雑だが、やるべきチャレンジを3RACHAとやってしまっているというSKY-HIのフットワークの軽さ?実は、BE:FIRSTへどう還元していくかを見るための挑戦だったと言ってもいいのではないかと思う。
MVを見てもらえたらならわかると思いますが、私がここで重要だと思っているのは、アジアで少なくともトップクラスのラッパーであるHanとChangbinはラップを韓国語で歌っている。SKY-HIはもちろん日本語だ。ラップ以外のメロディーの部分は英語と日本語。
ラップは母国語で歌うのが正解だということを私に明確に伝えてくれた動画だった。どんな言語でもその国のもつ、母音、子音、例えば韓国語で私がラップを聞くと内容は分からないまでも、破裂音(ぱぴぷぺぽ)がバンバン出てきて、聞いてて気持ちいい。
もちろん字幕をつければ韓国語のラップだろうと英語のラップだろうと歌っている内容は分かる。しかし、言葉遊び、音遊び、様々なラップの技巧的な部分、フローなどはその言語に精通して、さらにたくさんの言葉の引き出しを持っていなければできない。まして、そこに今流行りのスラングや言葉使いを乗せるとなると言うまでもない。
当然、Dance&Vocal Groupのラップは、いわゆるラッパーの中でも少し違うシーンになるとは思うが、それでも、今、ラップが入っていない楽曲を探すのは難しいだろう。ラップは、刺さる言葉を詰め込み、韻やフローで楽しませる、今では欠かせないパートだからだ。
そこで、今回の”HUSH-HUSH”は、おそらく、この3RACHAとの楽曲制作での手ごたえをもって、SKY-HI がD_U_N_K参加にラブコールを送り続けていたATEEZが出演に応じてくれた時から、BE:FIRSTとのコラボも想定に入っていただろう。何しろ、新曲を出してカンバするとなるとK-POPグループは戦場のような忙しさになるし、BE:FIRSTも同様。この楽曲を中途半端な形に終わらせるわけにいかないから、リリース日の絶妙なタイミングを図るとなると、D_U_N_Kで共演してから軽いノリで音楽を作ろうモードになるなんてありえない。すべてはMasterplanなのだ。
ATEEZサイドは思うに、日本での活動を広げていきたい中で、東京ドームの公演は一つの夢。彼らは韓国デビューして4か月で海外ツアーに出て、盤石なグローバルファンを作ってきた。BE:FIRSTは日本から一歩も出ていない。各SNSのフォロワー数のギャップはもう確認するまでものないが、そのBE:FIRSTが2年四か月で東京ドーム、京セラと4日間のドームツアーを成功させた。この経験はATEEZからすれば、ステージングも含め大きな興味となっただろう。(実際に今回のコレオのRIEHATA先生とATEEZは東京ドームのBE:FIRSTのコンサートを見に来ていた)
もし、ATEEZとコラボをするのなら、2022年のStrayKidsとのコラボの経験から、韓国語、日本語、英語でリリックを制作するのは当然のことだったはず。それが今回、楽曲に見事になじみどの国のファンも置いていかない作品となったと思う。
K-POPの日本のファンならばみな思っていることだろうが、日本デビューすると、わざわざ日本向けに楽曲を作り、ラップも平歌パートもすべて日本語、少し英語も入れつつ、で仕上げてくる。これが正直、うれしいというファンもいる一方、私のように、痛いと思う人間もいる。いくら日本語で歌ってくれても、母国語で歌う以上に感情を100%乗せることはできない。それに例えば英語で作った歌詞を日本語に変換しようとすると、何か違う表現になって伝えたいメッセージがずれてくることは十分ある。海外で分かりやすく伝えようと、坂本九さんの”上を向いて歩こう”という名曲を欧米では”SUKIYAKI”となってしまったみたいなことである。
The First TakeでStrayKids(彼らは日本語がとても上手)はいくつか日本語曲を歌っている。しかし、日本のみでリリースする楽曲以外であれば、韓国語で聞きたい。ChangbinやHanの最大の魅力のラップが日本語で歌うことで半減しているような気がする。
XGが”WOKE UP”で日本の音楽番組に字幕を付けたくらいもどかしいものはない。方や、それほどまでに彼女たちの歌を日本語で内容を知りたいと思っているという視聴者の当然の心理を反映したものだし、それでどんな歌を歌っているのか理解でき、彼女たちのパフォーマンスがずば抜けて素晴らしいことを考えると日本のファンが一気にどよめき、フォロワーも、MVの再生回数も一気に伸びた。
ただ、前述の流れから私がここで伝えたいのは、彼女たちのラップは明らかに楽曲制作チームにいるラップオタクのようなラッパーが付いていないと作れないレベル。欧米人にしか楽しめないようなラップの言語的な遊び、フロー、単語のチョイス、それをすべてまとめ上げるセンス。これは当たり前だが彼女たちでは作れないうえ、欧米人以外でも、Native レベルのEnglish Speakerでなければ、ラップのVerseのすごさを理解できない。完全に、なんかよくわからないけど、ビジュアルも含めて英語で歌ってて”かっこいい”としかとらえられないのではないか。ラップで語られているメッセージを翻訳で理解できても、ラップ本来が持つ緻密に積み上げられたVerseのかっこよさは理解できない。欧米だけで成功するためなら、今のXGは大成功だ。ただ、日本、韓国のファンの大方の人を置いて行っている。
ちなみに私がよくチェックしている海外YouTuberの動画でこのXGのラップがどれだけかっこいいか、テクニック、言葉のチョイスも含めて説明してくれている。彼は、彼女たちが、ラップのVerseを考えている制作チームが作ったものだとしても彼女たちの絶対的なファンだ。興味深いことに日本人アーティストで彼が取り上げているのはワンオク。ワンオクは動画はかなり上がっているし、StrayKidsのリアクション動画もとっているので、視聴者リクエストでリアクションを取るだけでなく、自分で気になるアーティストピックアップしてリアクションしている。
翻訳機能で日本語で見られないが、自動生成の英語の字幕を利用すれば、英語を聞き漏らすこともなく、彼の解説を聞くことができる。いくつもXGのラップの解説動画を探したが、彼の動画が一番いい動画だと思う。
話を戻すと、BE:FIRSTは今の実力で言えば、ATEEZははるか先の夢の存在だが、堂々とこのコラボに参加できるだけの結果をこの3年間残してきた。
ATEEZが4大芸能事務所ではないStartupの事務所出身であること、BMSGも同様。音楽性の親和性など相性がいい組み合わせだった。
これが、韓国の大手事務所と日本の大手のBoys Groupだったら実現しただろうか?韓国の事務所の壁を超えてのコラボ曲の制作も難しいだろう。
例えばJYPなら、StrayKidsが圧倒的な稼ぎ頭で、フォロワーはATEEZの4倍。彼らの弟分として生まれたNEXZ(日本オーディションで選ばれた)の楽曲制作はサポートできても、世界のK-POPの頂点にいる先輩と同じ曲でコラボするなどありえないだろう。まるで保護者が子供の巣立ちを助けるようなもの。
そこに、SKY-HIのBE:FIRSTの海外進出をいかに長い期間計算を重ねてここまで持ってきているか、正直舌をまく。当然、計画通りに進むばかりでなかったと思うが、BE:FIRSTのドームまでの道のりは、本来なら最初からゴリゴリにHipHop、R&B路線に切り替えることが出来たにもかかわらず、さわやかな曲からHipHopまでこれでもかというジャンルレスで様々な楽曲を表現できるメンバーを育てただけでなく、音楽を中心にBE:FIRSTを愛するファンダムも作り上げた。
今回、最高のコラボ、これはATEEZが世界的に有名な、特に欧米にたくさんのファンを持つグループということだけでなく、韓国のコンテンツにも出られる可能性も秘めているという特典付き。K-POPを目指しているわけではないから、そこの土地に住み着く必要はないが、できれば、韓国の音楽番組に出たいと思っているのではないか。いくつかの番組でもしATEEZと共演として出ることが出来れば、それは一つの海外進出のフックになる。すでにSBSの人気歌謡の音楽イベントにBE:FIRSTが出演するということが話題に上がっている。韓国での露出に意味があるのか全く考えていなかったが、XGの成功の一つに、韓国の音楽番組やバラエティ番組の出演で、世界中のK-POPを愛するファンたちが彼女たちを発見し、ファンになっていくのだから、X-POPというカテゴリーにありながら、韓国ベースにしていたことは大きなアドバンテージであり、最高のレバレッジになったことだろう。
SKY-HIはさてどう出るのか。HushHushのリリックにある通り、BE:FIRSTはUnderdogなのに結果を打ち出してきた万馬券なのです。少しずつ、BMSGの戦略が一つずつ形となって表れてきて、いよいよ、彼らのボースティングを楽しめてきましたよ。
私の中では、海外のフェスにどんどん出てもらいたい。日本のありとあらゆる春夏のフェスでawayで鍛えられ、今やUverworldやBack Number, WANIMAのイベントなど、ジャンルが違うアーティストたちからお声がかかるほどになり、当初は客寄せパンダみたいに見ていたアーティストもたくさんいて、いまだにそう思われているかもしれないが、少なくとも3年で彼らがフェスを最大に楽しむ方法を見つけて、フェスで披露したい楽曲をチョイスするようになった。その経験は海外進出で生きてくるだろう。ほとんどBESTYがいないような会場で、英語曲でもないが、すばらしいパフォーマンスで観客を圧倒させ、引き込ませる自信とともに道を開いていくのだろう。
それにしても、なりたい自分、ありたい自分は本当に言語化しておくべきだなと改めて思う動画がある。こちらもよかったらぜひ。この動画を撮影していた時には、メンバーはかなえたいと思いつつ、本当に2年後、素晴らしい先輩とMVを制作できるなって思っていなかっただろうと思うと、勇気をもらえますね。
それでもって、彼らもこの段階でトリリンガルの魅力について語っていたという音楽性の高さ。特にマナトの発言は2年後予測してた?とばかりの的確な発言。そのマナトがこの奇跡のコラボの楽曲制作チームの一員としてCreditされているというところ、また胸熱なんですよ。
SOTAがダンスで、SHUNTOはUVERさんとのコラボ、MANATOは楽曲制作に、RYUHEIはワンピース愛が運営側に届き、SHUNTOと共にワンピースゲームをして、メンバーみんな好きだけど、ワンピースゲームの主題歌を、JUNONはソロ曲もさることながら、カバー曲でその歌声の素晴らしさをApartmentBで見せてくれて、RYOKIは俳優として”寅に翼”で、LEOはラヴィットでその優しいキャラクターを全開し、好感度と共にビーファーの認知度を上げた。全員がそれぞれの分野で自分たちのグループを盛り上げている。後ろ盾もないメンバーがSKY-HIとともに全力で自走していることは神様は必ず見ています。
長くなりましたが、ラップは母国語で刺す。英語のラップは、プロに託して、それをアーティストは完璧なエグゼキューションをする。
これしかない。