「親との愛着」と 「自己肯定感」の関係
こんにちは!
対人コミュニケーションについて研究・教育をしている大学教員の今井達也です。
簡単に私の経歴を書きますと、青山学院大学で英語の教員免許を取った後、アメリカの大学院で対人コミュニケーションについて学び、博士号を取得。その後、某私立大学で対人コミュニケーションの授業を担当しながら、海外のジャーナルを中心に対人コミュニケーションについての論文を出版してきました。
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今回は、親子関係の理論である愛着理論と自己肯定感の関わりについて、1つの論文のことを少し共有します。
まずは言葉を定義していきます。
まずは愛着理論。愛着理論とは、端的に言えば、養育者(主に母親)と幼児との関わりが、自分や他者がどういう存在であるかという認識に影響を与え、その後の対人関係全般にまで影響を及ぼすことを予測する理論です(Bowlby, 1962/1973がオリジナル。金正, 2003の説明を利用。その他様々な研究者(Bartholomew & Horowitz, 1991等)が愛着理論の発展に貢献しています。詳しくは、各種論文をご確認ください)。
つまり、幼児の間に親とどう関わったかが、その子供のその後の人生における、自分や他者に対する考え方、行動にまで影響を及ぼすであろう、という提言とも言えるでしょう。
その愛着スタイルも様々な分け方があるのですがその内の1つを紹介します。
オレンジ色の 自己観(自分は愛されるべき存在かどうか)という軸と
青色の 他者観(他者は信頼できるか、頼れるかどうか)という軸を利用し
4つの愛着スタイルに分けています。
本当に簡単にその4つの特徴を説明すると以下のようになります(APA Dictionary of Psychology; 中尾・加藤, 2006; 加藤, 1999)。
安定型: 「自分はこのままでも十分だし、みんな自分を受け入れてくれるだろう」 ーーー 自分は愛される価値のある存在であり、他者も自分を受容してくれるであろうと考えられる。それにより他者との関係作りに難しさをあまり感じない。人を頼れるし、頼られても良い。
とらわれ型: 「みんなと仲良くなりたい、、、でもみんなは自分となんか仲良くなりたくないよね、、、」 ーーー 自分に対して否定的な評価をしつつ、他者のことは信頼できる。その低い自己観を保持するために、他者に依存するように承認を得ようとする。
恐れ型: 「人と親しくなることが怖い。人を信用することもできないし、親しくなりすぎて傷つくのが怖い、、、」 ーーー 自分に対しても、他者に対しても肯定的に感じることができない。人と親しくはなりたいが、諦めている。
拒絶型: 「自分は大丈夫。だから人を頼ったり、頼られたりするのは嫌だ。」 ーーー 自己観はポジティブだが、他者を頼ってよい存在だと思っていない。よって、自分でなんでもできていることが大切で、人に頼ること・頼られることが好きではない。
愛着理論の説明はこれくらいにしておいて、自己肯定感の話に移ります。
(英語で言うところのSelf-Esteem(セルフエスティーム)についての話になるのですが、Self-Esteemの訳は自己肯定感だけでは無いようです。ただ、ここでは自己肯定感=Self-Esteemとしたいと思います。)
自己肯定感とは「自分で思う自分の価値」と言えるでしょう。
下のアンケートで調べることができます(桜井, 2000)。
自己肯定感に関して言いますと、日本は自分に対する評価や満足度が、他国と比べて低いことが内閣府の調査で分かっています。
さて、ようやく本題に入ります。
先程述べた、愛着の4つのスタイルと自己肯定感に関連はあるのでしょうか。
言い換えれば、親などの養育者との関わりで培われた自己観・他者観は、自分で思う自分の価値と関わりはあるのでしょうか。
ここでは1つの研究結果を共有します(他の研究では必ずしも同じような結果が出るかは分からない、ということを書き添えておきます)。
Bylsma, Cozzarelli, & Sumer (1997)年による調査です。概要は以下の通り。
被験者:571の大学生
手続き:先程の自己肯定感のアンケートに加え、愛着のスタイルを調べるアンケートなどに答えた。
結果:自己肯定感は 1.安定型 & 4.拒絶型 > 2. とらわれ型 & 3. 恐れ型 (下図も参照)
自己観の高い 安定型 & 4.拒絶型 の方が、自己観の低い 2. とらわれ型 & 3. 恐れ型 よりも、自己肯定感が高い、という結果になりました。
つまり、自己観に引っ張られる形で、自己肯定感は影響を受けているようです。Bartholomew and Horowitz (1991)も同じような結果を示しています。
まとめますと、親などの養育者との関わりは、子供の愛着のスタイル(自分や他者のことをどう認識するか)に影響し、その愛着のスタイルと自己肯定感には関わりがる、可能性がありそうです。
(可能性がある、という言い方に留めたのは、そうではない可能性も否定はできず、他の研究結果を見る必要があることを示しています。)
当然、自己肯定感は親との関わり「のみ」で形成される訳ではありませんが、親との関わりの影響も否定できません。自分が親である場合は、自分と子供との関わりが、その子供の「自分自身の価値への認識」に影響を与えてしまうかも知れない、ということを頭に入れておいても良いかも知れません。
それではまた!
※「人との関わり」と「自分の価値」の関連について、以下の記事でも書いています: