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社会課題解決は企業と出資者で加速していく~書籍:ファイナンスをめぐる冒険から学ぶ~

このnoteは書籍:ファイナンスをめぐる冒険を参考に作成しています。


社会課題解決を目指している企業が増えている

ビジネス手法を用いて社会課題解決を目指している企業が増えています。

受益者に向き合って活動している組織の例を挙げると、北海道で自治体と連携して子どもの教育格差解消を目指す株式会社コエルワであったり、

活動団体を資金面で支えている企業として、クラウドファンディングのプラットフォーム提供や休眠預金事業の資金分配団体の実施などをしているreadyfor株式会社などが挙げられます。

非営利団体には無い企業の特徴

ビジネス手法を用いて事業をする場合の組織体は以下の種類があります。非営利団体には無い企業の特徴は、株式を発行することで多くの人から出資してもらえる可能性があること、所有権を渡すことでスタートアップ時期の企業に出資するリスクを共に担ってもらえることです。

・非営利団体
助成金や融資を受けることはできますが、株式を発行できないので非営利団体は事業の所有権を誰も持てません。すべての収入と利益は組織内にとどまり、株主に配当するといったことはできません。

・株式会社(営利企業)
創業者、従業員、外部投資家など株主を持つことができ、所有権は株式を誰が取得しているかで変わってきます。投資家は議決権と取締役を任命する機会を持つため、利益を配当金として株主に分配するか、事業に再投資するか等の意思決定に関係することになります。

・社会的企業
公的資金や助成金に頼らず、利益の創出と再投資によってビジョンの実現やミッションを果たそうとする企業です。株式の発行で所有権を持つことができますが、配当金の出し方について制約を設けることがあります。

・ハイブリッド組織
営利と非営利の2種類の法人形態を持っています。

・協働組合
一部またはすべての所有権を従業員が持っている企業

書籍:ファイナンスをめぐる冒険P65-66を参考に今給黎が編集

株式と聞くと、ベンチャーキャピタルによって爆発的な成長を強要されるのではないか・・・という恐れがありますが、最近は社会的企業への関心度合いが高まっていることからわかるように、経済的なリターンの優先度を下げて社会的インパクトを重視した出資者も増えてきています。

事業に必要になる4つの資金

事業を行う際には以下に資金が必要になり、そこに出資をうけることになります。

・プルーフ・オブ・コンセプト(POC)
市場検証や実用最小限のプロダクト(MVP)を作製したり実施したりするために必要な資金。
・成長資本
製品やサービス開発への投資、雇用、システム導入、セールス、マーケティングに使われる資金。
・運転資本
日常の事業運営、仕入れや材料購入、サービス提供を継続するための投入財に使われる資金。
・資産
建物、設備、ブランドなど有形、無形のもの。

書籍:ファイナンスをめぐる冒険P74を参考に今給黎が編集

非営利団体では十分な成長資本がなくてサービスの量や質が高めることが難しかったり、運転資本が助成金だのみになって継続してサービス提供するのが難しいなど、資金面でボトルネックになることが多いですが、出資をうけることで効率的な成長や事業運営ができる可能性が高まります。

エクイティによる資金の特徴

資金提供にはエクイティ(資本金)デット(借入)の2種類があります。

デット(借入)は銀行からの融資がそれにあたりますが、信用力がないスタートアップ企業や事業規模が小さかったり、季節変動が激しい収入傾向など、リスクが高い場合には融資は難しいです。

それに対してエクイティ(資本金)は将来の「成長」と「イグジット」での収益を見越して、株式のやり取りを通じて、先行投資をしてくれます。以下のような資金の特徴があります。

・柔軟:何に使ってもよい
・忍耐強い:当初は返済を求めない
・リスクを取る:担保がなく知的財産(IP)がほとんどないアーリーステージの会社に対する投資意欲がある
・積極的に関与する:メンターシップと、成長に関するインセンティブの一致がある。

書籍:ファイナンスをめぐる冒険P82から抜粋

NPOが取る助成金では、使途が決まっていて柔軟性がなかったり、一緒に長期間リスクを担う意識はなくて助成期間のみの関わりになったり、組織の成長への関与はしないといった面があります。

出資を受ける団体が、成長をする覚悟の度合いが高い場合、出資の方が相性がよいのかもしれません。

成長は「ステージ」と「見通し」の2つで見られる

出資者の言う「成長」は数年の間に10倍もの爆発的成長を求められるのではないかという危機感を持ってしまいがちですが、社会課題解決のための事業者に対する出資者はそれとは違うようです。

まず、成長は「ステージ」と「見通し」の2つで見られます。

成長ステージは以下の5段階で見られます。

書籍:ファイナンスをめぐる冒険P68から抜粋

爆発的成長を望む出資者は、早くスケール化することを目指します。一方、社会課題解決のための事業者に対する出資者は、どのようなアイデアがあるのかを確認し、対象受益者はどこにいて、どのようなビジネスモデルが最適なのかを対話したり、成長に必要なリソースを提供することを重視してくれるでしょう。

成長の見通しは以下の5種類に分類され、どこを出口戦略とするのかを事業者と出資者で合意していくことが重要なことになります。

・高成長ベンチャー
破壊的なビジネスモデルにより、大規模な市場シェアと高成長を見込んだ見通し。
・カテゴリー・パイオニア
破壊的な製品やサービスによって新しい市場を開拓し、スケール化する可能性がある。
・ニッチ・ベンチャー
革新的な製品やサービス、ニッチ市場、顧客を獲得していて、安定的に成長する見通しがある。
・ダイナミック・エンタープライズ
実績のある製品やサービスで市場のシェアがあり、安定的な成長を継続する見通しがある。
・生計事業
地元密着型の企業で、地域内の事業開会によって営まれており、成長見込みは限られている。

書籍:ファイナンスをめぐる冒険P316-P318を参考に今給黎が編集

社会課題を解決するための企業として想定できるのは、情報技術や教育メソッドなど卓越したものを全国に展開していくとなればカテゴリー・パイオニアとなるでしょうし、特定の領域であるが全国にニーズがあるものであればニッチ・ベンチャーになるでしょう。地域限定の出資者であれば生計事業が多く実施されることでまちに賑いが出ることが社会的インパクトとなるでしょう。

リソースとして提供される資金的支援と非資金的支援

先行投資には資金的なものと非資金的なものがあり、スタートアップ企業の成長と成功に向けて支援をしてくれます。以下のリストをみてわかるように、これをいち組織が単独で獲得するのは難しいです。

書籍:ファイナンスをめぐる冒険P79から抜粋

こうしたリソースはリスクを共に担い、成長することにコミットした事業者と出資者間でやりとりされることで真に活かされます。

助成金のような、リスクは負うのは事業者側のみだったり、お金だけの関係で成長にはコミットしていないといった状況下では、こうしたリソースはうまく使われません。

出資者が目指しているイグジットについて想定しておく

出資者は投資収益を得るために最終的にイグジットを目的にしています。イグジットは3種類があり出資者が何を目指しているのかを想定しておくことは事業者として大切なことです。

・トレードセール
会社をまるごと別の買い手に売却すること
・セカンダリー・セール
持っている株式をベンチャーキャピタル企業などの別の金融機関に売却すること
・新規株式公開(IPO)
証券取引所に上場すること

ベンチャーキャピタルの一般的なイメージはIPOを目指して爆発的な成長を促していく姿かもしれませんが、それ以外の方法があるので、事業の可能性や組織のミッションに見合ったの成長を出資者と合意していくことが重要になります。

様々なエクイティ(資本金)とデット(借入)の手法が実践されている

資金提供の2つの方法であるエクイティ(資本金)とデット(借入)ですが、単に株を取得してIPOして巨額の利益を得たり、単にお金を融資するだけではなく、社会課題解決のために事業をしているスタートアップのビジネスモデルや収益性、ミッションドリブンさ等に合わせて様々な手法が実践されています。

書籍:ファイナンスをめぐる冒険P21から抜粋

例えば、この中でベンチャーデットは、融資とエクイティをかけ合わせた仕組みです。スタートアップ企業に対して、元金の返済や担保を求めない猶予期間を設定するかわりに会社の株式や株式の購入権を提供するといったものです。

また、レベニュー・ベースド・ファイナンスは、収益に基づいた変動支払いができたり、株式に転換することで返済に充てることができるなどスタートアップ企業に優しい仕組みもあります。

本書で紹介されている内容は海外の取り組みが多いですが、日本においても実践例があるものがありますし、これから多くの手法が実践される可能性があります。

休眠預金事業における出資事業のスタート

それは休眠預金事業における出資事業が2025年から始まることです。

2024年3月から申請受付が始まり、2024年10月に2組織の採択が決まりました。2025年の4月頃から具体的な事業活動が始まっていくのではないでしょうか。

要項を確認すると、実行団体への出資手法は、株式・新株予約権の取得で、出資により取得する株式の割合は、実行団体の総議決権の50%未満と決められていることから、エクイティでの資金提供であることがわかります。

https://www.janpia.or.jp/koubo_info/investment/archive/2023/result/の公募結果から抜粋
https://www.janpia.or.jp/koubo_info/investment/archive/2023/result/の公募結果から抜粋

社会課題解決の手法として、困難を抱えている当事者に地域のビジネスを担ってもらったり、地域の特徴を活かして関係人口や移住者を増やすことでまちづくりを自治体と推進する、などがあります。

そして、注目してもらいたいのは、出資期間が5年~6年と長いことです。この期間の中で、一般的なエクイティで想定されている爆発的な成長を期待されるのではなく、ミッションを重視した成長への期待の中で、資金的支援と非資金的支援をうけながら事業に取り組めるのは、ビジネスに向き合う環境としてはとてもよいのではないかと思います。

社会課題解決のための事業をする法人格としてNPO法人や一般社団法人などが、これまで主たる存在でありましたが、これからは株式会社の法人格で社会的インパクトを志向している投資機関から出資をうけるのも選択肢として整っていくことがわかりました。

こうした出資の実績が増えていくと、諸外国のような様々な手法の導入も進んでいくと思われます。

2025年はこうした資金の選択肢が増えるきっかけの年になりそうです。引き続き関心を持って見ていきたいと思います。



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