180日後に去る私 33

工場内は狭いので、フォークリフトで旋回する時は特に注意が必要です。
以前と違ってさすがに地面に工具が転がっているなんてことはなくなりましたが…機械や備品にぶつけたら1発で壊してしまう可能性があります。


前にもリフト操作については書きましたが
「基本はゆっくり、確実に。安全運転で」
誰もがわかっている事です。
しかし自動車と一緒で、慣れてくると操作が荒くなったり、スピードを出し過ぎたりしてしまうのも事実です。
この日のOさんはどんな心理状態だったか分かりませんが、機械に繋がっているエアーホースを巻き込み、踏んでしまったようです。


私が見ている限りOさんと言う人は「ゆっくり確実に」仕事をするタイプでしたので、リフト操作も常に慎重でした。
スピードが速いHさんや私が当ててしまうのはまだ話が分かりますが、なぜOさんだったんだろうと不思議に思いました。


工場や会社でよくある
「早くやれ」
というやつです。特にHさんはせっかちなタイプです。この日に限らず毎日のように急かしていたようです。

「ゆっくりやっていたら仕事が片付かない」
確かにその通り、正論です。
素早く、安全にというのは相反する事柄に思えますが…
「いい塩梅でやれ」
ということなんです。

だけど最初の内は、ゆっくりやっていいよと言ってあげるべきです。無理をさせない、やり切るまで待つ、というのも先輩の仕事です。
後輩はまだ環境にも実務にも、慣れていないのですから。
それを無理矢理自分のペースに合わせろ、動け、というHさんの指導方針にも問題があって、この事故を生んだ原因のひとつとも言えます。

Hさんが1番怒ったのは
「ホースを踏んだのに、自分に報告しなかった」
事でした。
後々になってHさんがエアー漏れしているホースを発見、どうもリフトで踏んだ形跡がある…
「お前、これ踏んだか?踏んでるやろ?」
とOさんに問い詰めると、白状したとの事でした。

どうしてそうなったか…個別でOさんにも話を聞きました。
「Hさん、いつも怒ってて喋りづらいんです」
「今日のも、リフトごと後ろに下がれって言われて…はよせい、遅いぞって急かされるんで、あんなに狭い場所で安全運転もクソもないですよ。
踏んだ時に感触があったような気がしましたけど、次の作業次の作業ってどんどん進められるから…確認して言い出すタイミングも失ってしまいました。
最近ずっと早よ動けばっかりで僕の話なんて全く聞いてくれないんです。何がそんなに急がないといけないのかわかりませんし、もうあんまり返事もする気が起きません」


とにかくOさんの話を頷いて聞いていましたが…Hさんの部署では、色々と問題を抱えている様でした。


会社を去るまで
あと148日

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