180日後に去る私 72

退社するときにはいつも事務所のドアを開けて、工場長やYさん、A社の方々に挨拶をするのですが、その日の事務所はいつもと違う光景でした。

本社からMさんが来ていて、とてもピリピリした雰囲気でした。
私はその時点で、これは本当に大ごとだと思いましたし、下手すればクビまでいくんじゃないかという予感がしました。

Hさんのやったことは、それ程重大で、会社の信頼を著しく損なう行為でしたので
(もし検問などで警察に止められたり、事故でも起こしていたら、即逮捕だったでしょう。無免許運転なのですから。車両の管理者である会社もタダでは済まなかった筈です)


次の日工場長は朝礼で、昨夜決まったHさんの処分について説明し、私達に署名をしてくれないかと持ちかけてきました。
要は、現場のみんなもHさんと一緒に働きたくない、働くことができないという署名を集めようとしていたのです。

しかし私達はさすがにそこまではできないと言い、Hさんの処分(退職)は覆らないのか尋ねました。

昨日の時点でもう、退職する方向で定まり、本人も未練はないという事でした。
今日の朝から本社に行き、社長に挨拶をしに行っていると聞かされました。
あまりに突然で、Hさんと挨拶を交わすことすらなかったので、流石に最後は顔を見て挨拶をしたいと工場長に頼みました。
しかしHさんはもう工場には一切顔を出させるつもりはないという答えでした。

貸与品や書類の返却、有給の消化など、どこまでの処理があったか聞かされませんでしたが、必要な手続きも郵送で済ませる方向のようでした。


私はHさんのことを好きでも嫌いでもない、どちらかというと嫌いな部分もあった事は確かです。
がしかし、一緒の時期に入社して、曲がりなりにも、一緒に仕事をしてきた仲間です。
確かに許されない事をしたけど、こんな別れ方は嫌だと思いました。


残念ながら最後の挨拶もさせてもらえず、それから2度とHさんと会う事はありませんでした。
あくまで自主退職という形をとっていますが、殆ど強制的な解雇に近い状態でした。


それ相応のことをしたとは思いますが…工場長としても会社としても、初めからHさんを辞めさせたかったんだなとは感じました。
また1人、仲間がいなくなってしまって、特別な寂しさがありました。
私にとってHさんとは唯一の同期でしたので、他の誰とも違う信頼感、仲間意識があったのだと、居なくなってから気付かされました。


会社を去るまで
あと109日

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