180日後に去る私 86

「退職日については…Bさんの意向の2週間後って言うのと、Tさんや会社が言う1か月っていうのは、両方の気持ち尊重して、ええとこ取り?はできないんでしょうか?
もうBさんも気持ちが切れてしまってると思いますし、会社の意向があるんも分かるんで…
両者に無理がないように、間とって3週間後とか。例えばの話ですけど」


退職日については色々な問答がありましたが、最終的には工場長が折れてくれたという形になりました。


「わかりました。じゃあ退職日については予定が決まっている所までにしましょう。8月の〇〇日に退職ということで。今から退職届書いてもらって、今日もしくは明日受理されても2週間以上は空いてるんで、法律的にも問題はないでしょう」


「Bさん、それでいいかな?
もう、覆らへんよね?どう転んでも。
今から退職届を印刷してくるから、日付と名前と印鑑ついて提出やけども、ホンマにそれでいい?」


少しの間もおかずに、Bさんが素早く答えます。全く迷いのない声でした。


「それでいいです」


その場で届を書いて、Bさんの退職はこれで決定しました。
が、私にはまだまだ納得し難い事がありました。


「これから新しい人を入れるって言っても、同じ事やと思うんですね。
Bさんもそうやし、こないだのHさんの事もそうですけど…基本は皆、頑張ろうと思って入ってくるのに、1年2年経つと辞めてしまう。
今までの人みんなそうでしたけど、明らかにサボってるとかやる気ないとか、どう考えても悪い人間じゃなかった訳じゃないですか?
なんで頑張るぞと思って入ってくる人間が揃いも揃って次々と辞めるんでしょうね?
それが分からないと、ずっと同じ事の繰り返しですよ」


「僕は最近、Hさんが辞めた時もそうやし、Uさんが辞めてから特に思うんですけど…、Tさん変わりはったなって思うんです。
前はもっと現場の声聞いてくれてたやん?って。
現場が大事やって言う割には、聞く耳を持とうとしないって感じるんですけど」

「確かに前よりも、コミュニケーションは減ってるとは思う」


「それは何故ですか?」


「これはちょっと、言い訳になってしまうけど…抱えてる仕事が多くてバタバタしてるのはあるね。
本社の営業の事、A社の事、工場の製造計画や原料の手配、社長との打ち合わせで意見の擦り合わせをしたり…」


「僕の工場長としての1番のミッションは、営業が取ってきたオーダーを円滑に納入する。
最も力を入れるべきは、これなんですよ。
だから皆の雇用を守るだとか、意見を聞くという事がミッションではないんです。
皆を守ったり、コミュニケーションを取るって言うのは、言うなればミッション達成の為の手段なんです」


会社を去るまで
あと95日

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