加熱工程は必ずHACCPの重要管理点CCPにしないといけない?
国際的な衛生管理手法であるHACCP(ハサップ)。
1960年代に米国で開発されたものの、日本での制度化は昨年6月からやっと開始された。
すべての食品等事業者が取り組むことになったが、この仕組についての普及にはいくつかの課題や問題点がある。
その一つに指導者の力量不足が挙げられる。
HACCPは製造加工・調理の工程の中で、食中毒菌や異物からのリスクを想定して、可能性が高く重篤性の高いポイントを重要管理点CCPと称して、集中的に管理する手法である。
「重要管理点CCPを設定すること」とは、事業者がその工程を集中的に管理することをいわば宣言することであり、
・加熱の温度や時間を継続的に監視すること
・そのデータを記録すること
・定期的な見直しを図ること
・基準を逸脱した際のルールを事前に決めておくこと
・基準を逸脱した際、是正措置を行い記録を残すこと
など数多く実施すべきことが発生するので慎重に設定する必要がある。
例えば、食中毒菌のリスクを下げるのに有効な手法としては、加熱がまず考えられる。ここで問題なのは、力量不足のHACCP指導者に教えを請うと、「加熱工程はすべて重要管理点CCPにすること」と言われてしまうことである。
カレーを事例にして挙げると、煮込み工程は殺菌をしているから温度・時間の測定と記録が必要ということになる。
ところが、カレーは煮込むのに30分以上は掛かる。十分に煮込まないと具材が軟らかくならないし、味がなじまないからであるが、本当に加熱の温度・時間の測定や記録が必要なのか?という疑問が湧くのも当然なことである。
ここでのポイントは、「加熱による殺菌強度」と「調理・加工・製造に最低限必要な加熱」のうち、いずれが上回っているか?である。
「加熱による殺菌強度」として、黄色ブドウ球菌やサルモネラ属、大腸菌などの一般的な食中毒菌(無芽胞菌)は75℃・1分以上の加熱を求められている(ちなみに、ノロウイルスでは85~90℃・1.5分以上と若干加熱条件が厳しくなる)。
また、カレーの「調理・加工・製造に最低限必要な加熱」としては、95℃・30分以上の煮込みとする。
ケース①
「加熱による殺菌強度」>「調理・加工・製造に最低限必要な加熱」
=加熱工程をCCPにする可能性が高い
ケース②
「加熱による殺菌強度」<「調理・加工・製造に最低限必要な加熱」
=加熱工程をCCPにする必要性は低い
今回の「煮込み工程」の場合、
食中毒菌(無芽胞菌)75℃・1分以上 < 煮込み条件95℃・30分以上
であるから②に該当する。
つまり、加熱調理条件が加熱殺菌条件を上回っているため、この工程をCCPにする必要性が低い。
加熱工程を機械的に重要管理点CCPにするべきではない。
誤って指導され数多くのルール作りや測定・記録といった作業が負担となってしまい、HACCPができなくなるケースが散見される。
もちろん、ケース②であることを説明できるバリデーション(妥当性確認)記録が事前に必要である。