薬
死にたい気持ちが 波のように 喉元を
抉るから 僕は海の中にいるみたいに
息が苦しくて 胸が苦しくて
浅い呼吸を繰り返しながら
ぼやける視界で 薬を手にする
水で飲みなさいって書いてあったな
この薬は不味いから
あとで何か飲まないとな
そんなことを淡く考えながら
一粒ずつ ちゃんと 指示された量を口に含んでいく
あー 誰かが言ってたな
リスカなんかで死ねるわけないのに
可哀想な私を見てって感じ
気持ち悪いって
薬なんて飲んでなかった頃
物に当たると親に叱られた
どうせアザができるなら
自分で作ってしまえばいい
誰かを殴るくらいなら
傷つけるくらいなら
自分でいい
誰かに見せたくてしたわけじゃなかった気がするけど
今となっては どうだったかも覚えてない
メンヘラってさ ヤりやすいし 楽だよな
あいつらすぐ股開くじゃん
そうだね 抱きしめてくれるなら
その対価を払わないのはよくないかなって
身体を提供してるだけ
別にセックスが好きなんじゃない
君が好きなんじゃない
ただ この息苦しさを 誰かの温もりで
一瞬でいいから 解放されたいだけ
俺さ 死にたいって思うやつの気持ちがわかんないんだよね
鬱とか何 自己肯定感高いからさ まじわかんない
そっか
平凡な家に生まれて平凡なら親に育てられて 幸せだったし 死ぬのは怖いくらいだ
そっか
愛されないことを知らないんだね
どんなに求めても 与えられるはずの愛を
受けられない環境にいた事がないんだね
誰かにいらないって言われたことがないんだ
そっか
それが唯一の肉親であったことも
そりゃないよな
心が壊れた人のそばにいるとさ
蝕まれていくんだよ
愛されなくて当たり前
愛される価値がないのも当たり前
愛せなくて当たり前
捨てられるくらいなら 捨ててしまえ
大切なものはみんな 私をいつか捨てていく
その前に僕は消えればいい
死にたいがわかんない人に
生きたいを教えられても
馬鹿馬鹿しくて涙が出ちゃうよ
そうやって僕は周りの人間を掃いて捨ててきた
1人でいたら傷つかないから
傷つけられたことも無いのかな
傷つけたことも気づかないんだろうな
しあわせだね
そんな言葉を思い出しながら
一錠 一錠 滑りの悪い喉を
通り過ぎていく
まだ文字が打てるうちは
気は確かだ
本も読めなくなって
色もわからなくなって
話し方も変わって
薬を飲んで死にたい感情を抑え込んで
無になる私は私であるのか なんて考えてる間に
気が狂って そもそも 私は私を忘れる
記憶を失って
また見慣れた天井で管を繋がれる
拘束されながら思う
またやっちゃったか
また私は 周りを捨てたんだな
そして 捨てられたんだ
誰も知らない
私を知らない
私も知らない
私はいつから 死んだのかな
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?