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第6話 A君に届け

20歳までの間で1番思い出したくないのは中学時代の事だ。ほとんど記憶から消している。なので、もちろん、同級生の名前も覚えていない。

私には小学5年からの女友達が一人だけいる。実家に帰る時は必ず会う。けれど、そんなに頻繁に連絡を取りあってる訳ではない。それでもその子とは、会った時に髪型や好きなものがちょっと似てるから面白い。

母が覚えてるただ一人の私の友達だけど、高校の時は、母親はその子と会うのを嫌がっていた。Kちゃんとは高校が違ったから、ちょっと怖いお友達もいたし、ちょっと心配になったけど、Kちゃんはずっと優しくて、私を持ち上げてくれる子だった。

Kちゃんと話をすると、中学時代の同級生の名前がよく出てくる。私は全然覚えていない。嫌な記憶を消そうとすると、その時期がごっそりと消えるようで、本当に覚えていないし、会いたいとも思わないし、私のことも思い出さないでほしいと思ってる。

けど、私は一人だけ、思い出す男の子がいる。好きだった子ではない。

時代もそうだが、土地的にもヤンキーが多かった。いまだに出身どこと聞かれ、答えると、必ずヤンキーだったでしょ?と言われる。

腹が立つ。私はヤンキーではない。

むしろ、ヤンキーじゃなかったから、痛い目にあったようなものだ。

私の中学にはその地域で有名な強い存在の女の子Oがいた。めったに学校には来なかった。その子の二番手とでもいうのだろうか、Mちゃんは中学生とは思えない感じの大人びた子だった、その子と私はクラスの中だけでは仲がよかった。一緒に遊びに行ったことなどはない。

その子と一緒にいれば、黙ってても目立ってしまう。それがまた失敗だった。

修学旅行事件が起きた。正確には、修学旅行後事件だ。

ヤンキーというか、目立った子たちの仲間同士集まった部屋が、私たちのクラスの部屋だった。もちろん男の子たちが入ってくる。すごく怖かった。けど、その時付き合ってたもの同士の話で、他の子たちに何かある訳ではなかった。

ただ、朝になり、他の女の子たちと、夜怖かったよね、って話をした。

そしたら、その話が大きくなって、先生に伝わることになり、そのヤンキーの子たちは怒られたようだが、その時代は、先生はヤンキーに優しかった、優しかったというか、仲良くすることで校内暴力とかを避けたかったのだろう。

それで話は終わったと思ったのだが、調子こいた女が、犯人探しを始めた。誰が最初に言い出したのかと。それが私だろうという結論に達したようだ。

私は言いふらした訳ではない。一緒に怖い思いをした子たちと、怖かったねと話しただけだ。

それでも、他のおとなしい子たちはどうでも良く、私が気に入らなかったのだろう。

放課後、Oの家に来てって言われた。学校だけでなく、その地域で有名な強い女の子の家だ。どこにあるのか、行ったこともない。けど、行ったら何かやばいことになるんだろうなというのは、さすがにわかった。

私はどうしていいかわからなくなり、給食の時間に食べることも出来ずに泣いていた。

「Yちゃん、帰った方がいい」

目の前のA君が言った。

A君は中学生なのに、歯はヤニだらけ、喧嘩しすぎたのか歯もないA君は、学校の外の姿は知らないが、優しかった。

「Yちゃん、このまま学校に残ってたらだめだ、俺が先生に言ってやるから帰れ」

その後先生がきて、私はすぐに家に帰された。

帰った私は部屋で泣いていた。親になんて説明したらいいのかもわからない。今度こそ学校にも行けない。人生終わった。

その後、先生が来たのか、親に説得されたのか、記憶が飛んでるが、とにかくもう解決したから大丈夫だから、学校に来なさいということだった。

嫌な記憶として抹消したかったから、どうなってどうなったのかわからないが、学校に行くと、その、地域で怖いOちゃんが、「Yちゃんごめんね」って謝ってきた。

私は無事だった。


その後、私のことを陥れようとした女が酷い目に遭わされたと聞いた。


それからは受験もあったし、私の記憶は卒業式に飛んでる。


卒業式の日、クラスで仲良くしてた、大人っぽいMちゃんが私に教えてくれた。


『Yちゃん、あの時、本当に、Oの家に行かなくて良かったよ、あの時、他校の生徒含めて、かなりの人数の男集めてたんだよ」


って、サラっと言われた。


この町から早く出たいと思った瞬間だ。


だから私は、ヤンキーだっだんでしょ?と言われることが腹立たしい。


私はヤンキーではない。中途半端だったからこそ、危険な目にあったのだ。


そして、20歳の頃だったろうか、A君がバイク事故で亡くなったと聞いた気がする。


A君がいなかったら、今の私はいないはずだ。


たくさんの同級生の顔も名前も忘れた私だが、A君の、ヤニいっぱいで、歯が何本かなくて、けど、あの笑顔は忘れていない。


あの時助けてくれて、本当にありがとう。

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こるおか
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