見出し画像

南部ベトナム語で悩んだことー「洗う」のか、いや「氷なのか」?

語彙が違う北と南のベトナム語

カントーに住みだして4カ月半、ハノイと行ったり来たりも良くしているので実質は4カ月弱でしょうか。ハノイである程度ベトナムに対する自信を蓄えてやって来たメコンデルタでは、だいぶ異なるこの地のベトナム語にかなりの勢いで打ちのめされつつ(苦笑)、しかし同時に南部・メコンデルタのベトナム語を非常に楽しんでいるところです。

「新しく洗ったコップ」に出会う

そんなある日、あるカフェでこちらの光景に出会いました。左には「Ly tẩy mới」右には「Ly tẩy dùng rồi」とあります。

「Ly tẩy mới」と「Ly tẩy dùng rồi」

(私の頭の中の独り言)
南部ベトナム語では「Ly」は北でいう「Cốc」、つまりコップの意味。よし、これは知っているぞ、OKと。「mới」は新しいという意味だから、まあ洗った綺麗なコップということなんだろう、と。では、その間にある「Tẩy」は…?あぁっ、この言葉は北のベトナム語では「消す」という意味があり、例えば消しゴムなども「tẩy(tẩy bút chì)」と言うので、なるほど、だから汚れを消し去るということで「綺麗に洗ったコップ」ってことだなあ。

と、解釈していました。そう理解はしつつも、右側の「Ly tẩy dùng rồi;使用済みの洗ったコップ」という表現が何だかぎこちないなあと、ちょっと腑に落ちずにいました。

何と「Tẩyは氷!」

そのモヤモヤを晴らすべく地元の人に「Ly tẩy mới」について何人かに聞いてみると「ああ、それは新しいコップって言う意味だよ」と。でもそうすると「tẩy」はどう理解するのか?お店でももう一度確認すると
店員:「あぁっ、tẩyは氷だから、氷を入れるコップでly tẩyなんだよ」と。
自分:「でもコップに氷まだ入ってないよ?」
店員:「でも横に店で準備してある水は氷水でしょ。だからly tẩyで良いんだよ」
とのこと。

つまり、こちらの人の感覚だと、特にカフェやレストランなどだと、コップには当然氷が入っている、或いは氷で十分冷たくした飲み物を飲むのが当然なので、コップ自体が往々にして「ly tẩy」と呼ばれる、ということだそうなのです。上記X投稿でも紹介しましたが、当地では氷提供サービス精神が非常に強いので、「Ly」は往々にして当然ほぼほぼ「ly tẩy(氷コップ)」になるのかなと、そういう風に理解しました。なるほどなあ。

広東語からやってきた「tẩy」=氷?

では、そもそもなんで「tẩy」が氷(北部ベトナム語では「đá」)になるのでしょうか?この南部特有の言い方には、ネット上で紹介されている由来として面白いのは、何とこの言葉が広東語表現から派生したものではないかという説です。つまり、以下X投稿でも紹介した、ベトナム語のミルクコーヒー(cà phê bạc xỉu)の由来である広東語の「白底小啡bạc tẩy xỉu phé」の「tẩy:底」から更に派生したというのです。

カップの底にミルクたっぷりの「たっぷり」感を表現する「tẩy:底」が、暑い地域で常に沢山入っている氷に応用され、引いては「tẩy」自身が氷を表す表現に変化してきたというのです。これが正しい正解であるかどうかは確証は持てませんが、ある学者さんの説ということで一定の信ぴょう性をもって紹介されており、非常に面白いなあと感じましたので紹介までに。

やっぱり深い、南部ベトナム語の語彙

今回の件でもまた深く感じましたが、北と南、そしてメコンデルタ地域でのベトナム語語彙の近い、これはかなり深い、そして面白いなあと思います。以下では「ほぼお手上げ」ってな結論にも達しましたが、でもこれからも色々な発見を楽しんで、少しずつ色々覚えていきたいなあと思います。

そしてそれを聞いてわかる段階を経て、自分で使いこなせるようになったらようやくベトナム語バイリンガルへの道が開ける…かな?


11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。