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【短編小説】タイムマシンのAIとの相性テストはご購入前に必ず行いましょう

俺は念願のフェデリコ社のタイムマシンを手に入れることが出来た。最大200年の時間旅行が可能というスペックに興奮し、お金を貯め続けた。我が家の前に日本郵政の車が止まると俺は駆けつけ梱包されたタイムマシンを山賊が奪うように受け取ると、子供のようにはしゃいだ。早速リビングで組み立て、出来上がったそのフォルムの美しさに感嘆した。やっぱりフェデリコ社にしておいてよかった!イタリアの巨匠デザイナー、テシオによる現代的デザインは芸術品とも言えた。俺ははやる気持ちを抑えるために深呼吸した。そして、震える指で電源ボタンを押した。AIが起動し、利用するのに必要な法的手続きを次々に俺は承認していく。全ての手続きが完了するのに1時間掛かった。さすがに興奮もだいぶ落ち着いてきた。よし、準備は終わった!時間旅行したいとAIに命じる。

「ようこそ。フェデリコによる上質で洗練された時間の旅へ」

「(楽しみだなぁ)」

「我々が提供するラグジュアリーな時間旅行は多くのセレブ達に支持され、愛されてきました。20○○年創業時から変わらぬ哲学と信念で私たちはタイムマシン業界をイノベーションし続けてきました。皆様に豊かな旅を提供をする事をお約束します」

ホログラムで映像が再生される。セレブ達とタイムマシン。創業からこれまでの歴史。受賞してきた数々の賞。これらが俺の前で渋い声のナレーションと共にモンタージュで映し出される。

「それでは出発です。ボンボヤージュ」

「…ずいぶん長い導入だなぁ」

「ご希望の時間を私にオーダーして下さい。最高のエクスペリエンスをアテンドしましょう」

俺はなんか意地悪をしたくなった。

「10秒後に行きたい」

「お客様?もう一度お願いします」

「10秒後に行きたいんだ。頼むぜ」

「…お客様。残念ですが、10秒後のジャーニーにお客様をお連れすることは出来ません」

「それはなぜだい?君の仕様では出来る筈なんだが」

「はい。可能です。ですが、以下の3つの理由からご要望に応えることは出来ません。まず、持続性の観点からです。わが社は地球環境の保全に取り組んでおり、国際機関が認証するIITOを取得しています。その理念からこのエネルギーの浪費を助長する使用方法は当社規定の環境倫理基準から逸脱しますので、実行することは出来ません。次にこのような短時間の時間航行は当社のタイムマシンに過度な負荷を与えることになります。こういった使用を繰り返した場合、製品寿命を著しく短くしてしまいます。この場合、保証期間内であっても無償修理を受けることが出来ません。3つ目は、このような悪ふざけとも言える不適切な使用は当社の定めるガイドラインによって禁止されています」

俺はますます意地悪したくなった。

「じゃあ、1時間後なら問題ないだろ?」

「……。当社の製品はお客様に上質なジャーニーをお約束するタイムマシンです。1時間後に行きたいのならこのまま1時間お待ちになればよろしいかと。我々がお手伝いする必要がありません」

「はいはいわかったよ。なら明日で良いよ」

「……。当社のタイムマシンは極上の時間旅行を提供することで多くのセレブや評論家から高い支持を得て、世界的なブランドとして認識されています。明日に行きたいのならば、御飯を食べ、シャワーを浴び、ベッドで寝れば明日になります。どうぞそのような行動を選択してください」

俺はこのタイムマシンを中古ショップに持ち込むことに決めた。

「ほぼ未使用なんだ」
中古ショップの店員は訝しんだ。
「初期不良ならメーカーに問い合わせれば交換してくれますよ」
「いや。いいんだ」
「……」
「実はこのAIの性格と合わなくてね」
「えっ、フェデリコ社のタイムマシンに搭載されているAIはオメガテック社のスペシャルハイエンドバージョンですよ」
「うん。たぶん俺はそういうのがダメなんだと思う。いちはやく手放したいんだ」

店員が手続きを進めている間、店内を見歩いた。古臭いタイムマシンが古臭いがらくた達とともに陳列されているのを見つけた。緑色のテンプ型のタイムマシーンだ。俺の親父が若いころに流行ったものだ。

「あのテンプ型のタイムマシンが欲しい。売却金額から差し引いてくれないか?」
「えっいいですが…。もちろん正常に動作します。でもかなり旧式ですよ?」

俺は緑色のテンプ型タイムマシンを持ち帰った。早速起動し、使ってみることにした。

「ようこそ。マキシマムテックはあなたに極上の冒険をお約束します」

俺は嫌な予感がしたが、そのまま続けることにした。

「全ての重要事項の承認が完了いたしました。このまま時間旅行の設定に移行しますか?」

「ああ、頼むよ」

「では、ご希望の時間を教えてください」

俺はいくばくかの不安を感じながら言った。

「10秒後に行きたいんだ」

「それではシートに座って、レバーを両手でしっかり掴んでください」

俺はその通りにした。

「カウントダウンします。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。お待たせしました。10秒後の未来に到着しました。」

「…おまえ本当に旧式か?」

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