IMA ニュース 2002年1月号
モットー:果敢にリスクに挑戦し,素早く結論を出し,新しいビジネスを創出し,日本経済再生に寄与する。
IMA (Institute of Mathematical Analysis:数理解析研究所)ニュースをお届けいたします。同じ内容のものを,ホームページ にも掲載します。
弊社の海底地殻変動の高精度計測法
今回は,海底地殻変動の高精度計測法について述べてみたい。陸上の地殻変動については,国土地理院のGEONETという高精度GPS観測網によって詳細な観測が行われている。しかし,日本のような国にとっては,日本列島周辺の海底地殻変動の観測も極めて重要である。言うまでもないことであるが,海底では陸上と同じようにGPSで直接観測することは出来ない。それと地殻変動観測が目的であるから,センチメートルの精度が必要である。海中部分の計測は音響信号を用いることになるが,海中の音速分布は一様ではなく,時々刻々変わるものである。
いくら重要な問題だといっても,前代未聞の難問であるから,普通の人は最初から不可能と思って挑戦しないであろう。誰もドンキホーテにはなりたくない。ところが世界は広い。15年ほど前にこの問題にチャレンジした人たちがいる。米国のスクリプス海洋研究所のグループで,その方式は,以下のようなものである。海底に置かれたトランスポンダーを中心とする同心円上の例えば3点に海面上のトランスポンダーが置かれているものとする。音速は深さ方向にしか変化しないという水平成層の仮定を置くと,不均一な音速分布による音線の曲がりの影響はキャンセルされて,海底トランスポンダーは幾何学的に正しく海面トランスポンダーの中心にあることになる。一方,海面トランスポンダーの位置は,GPSを用いると高精度に決定できる。すなわち,海底トランスポンダーの水平位置を高精度に決定できることになる。
日本でも海上保安庁のグループと東北大学のグループがこの方式に基づいた観測法を開発しつつある。しかし,この方式を実用に供するには,無理があるように思える。海面上のトランスポンダーの位置をそんなに都合よく選ぶことは難しい。これが筆者の疑問である。もっと自由な計測法でないといけない。
海底トランスポンダーの位置ばかりでなく,海中の音速分布も未知数として解いてしまえばどうであろうか?海中が水平成層をしているとして,各層の海中音速を未知数とするのである。潮流のあるところでは,潮流速も未知数とする。数学的には一種のトモグラフィ法である。そう考えて,3年ほど研究している。その成果は,日本測地学会,日本造船学会,Underwater Technologyなどに発表しているが,高精度計測をする上で,海中環境も未知数とすることの効果は極めて大きいという結果を得ている。今のところ,まだ一人でこつこつやっている段階であるが,世の中に認められるまで,頑張らねばと思っている。
Underwater Technology 2000で発表した際に,東京大学海洋研究所・元所長の奈須紀幸先生が聞いておられた。海洋トモグラフィーの創始者であるスクリプス海洋研究所のW. Munk先生に論文を送りなさいとのご意見を頂いたので,論文を送り続けているが,いつも暖かい励ましの言葉を頂いている。
12月の仕事
(1) 地下GPS実験の実施と報告書作成
(2) 高感度GPSのデモ実用化提案
(3) 高精度GPSの開発提案
(4) 日本造船学会春季講演会(2002/05)に講演申し込みと論文作成
http://www.snaj.or.jp/
(5)ION NTM 2002の論文作成
http://www.ion.org/meetings/ntm2002abstractlist.html
1月以降の予定
(1) 地下GPSの実用化提案
(2) 高感度GPSの実用化提案
(3) 高精度GPSの開発提案
(4) 通信変復調実験装置の提案
(5)ION NTM 2002シンポジウムで論文講演(1月/サンディエゴ)
http://www.ion.org/meetings/ntm2002abstractlist.html
(6)UT2002シンポジウムで論文講演(4月/東京)
http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/ut02/Welcome.html
(7)OMAEシンポジウムで論文講演(6月;オスロ)
http://www.asmeconferences.org/omae02/Author/NewAbstract.cfm
(8)日本造船学会春季講演会(2002/05/東京)で講演
http://www.snaj.or.jp/
雑感:アフガニスタンの子供達
昨年9月11日のテロ事件以来,米国の報復攻撃に逃げ惑うアフガニスタンの人々の苦しみが連日報道されている。結果的には,タリバンやアルカイダの理不尽な支配からの解放であるから,現在の苦しみは必ず報いられるに違いない。しかし,その苦しみは我々の想像を超えるものであろう。特に,幼い子供たちの姿を見ると,実につらい。
筆者は1940年12月の生まれであるので,第2次大戦で日本が無条件降伏をした1945年8月には,満4歳8ヶ月であった。戦争のために国力を使い果たした日本人の生活は,実に悲惨なものであった。特に都市生活者にとっては,日々の食糧確保が大変であった。食糧の配給はあるが,とても生きていける量ではなかった。筆者の幼児の記憶は空腹に貫かれている。なんとか生き延びれたのは,両親の愛情と米国の食料援助のお陰である。
筆者の身長は165cmである。同世代の男子の身長としては平均であるが,前後の世代に比べると数cm低い。当時の苦しい生活が,成長期にあった当時の子供の体格に記憶されているのである。
筆者にはこんな幼児の体験があるので,アフガニスタンの子供達の苦難を見ると,どうしても自分の幼児の記憶がよみがえって,とても人事とは思えない。なんの罪もない子供たちが,なんでこんな目に遭わないといけないのか?おなか一杯食べて,夢一杯であるはずの幼時を,空腹と恐怖の中で過ごさないといけないとは,実に理不尽である。
戦争が悪であることに異存はないと思うが,人類は未だに戦争を続けている。いつになったら,戦争のない時代が来るのであろうか?