本屋「火星が出ている」を始めました。
2024年8月からシェア型本屋「本店・本屋の実験室」の棚を借りて、「火星が出ている」という本屋を始めました。
「本店・本屋の実験室」は、東京都高円寺にある「コクテイル書房」さんが始めた、新しいタイプのシェア型書店です。
最近増えているシェア型書店。そのほとんどが棚の一段を貸す「箱貸し」モデルですが、本店・本屋の実験室では、一棚丸ごと貸す「棚貸し」モデルになっています(本店・本屋の実験室のコンセプトやシステムの詳細は、こちらをご覧ください)。
一つの棚には7段あるので、最大で150冊-200冊くらい取り扱うことができます。いろんな本が置けて楽しいのですが、仕入れや値付けに工数がかかるし、棚の見せ方にも工夫が必要になってくるので、割と大変です。いや、かなり大変。そして、難しい。本当に難しい。
てんやわんやで準備して、開店を迎えてから3週間経ちました。ようやくちょっと落ち着いてきたので、改めて「火星が出ている」のお店の紹介noteを書きたいと思います。
コンセプト
うちの子ども(長男、9歳)は粘土がすきで、よく家でいろいろ作ってます。
造形技術もすごいけど、作るもののイメージがすごい。彼は、事前に何か下書きのようなものは準備しないし、いつもテレビの前でYouTubeを見ながら作っている。何を考えて作っているのか全然わからない。ということで、長男に聴いてみました。
僕 「すごいクオリティ高いけど、何を作るかって最初に決めてるの?」
長男「決めてないよ」
僕 「そうなんだ。じゃあ、どうやって作るもののイメージを具体的にしてるの?」
長男「うーん、粘土に触ってると、こういう風にしようかなってアイデアが湧いてくるから、それをもとに作ってる。だから、イメージとかはないよ。作りながら考えてる。」
僕 「そういうことか。じゃあ、テレビ見ながら作ってるのはなぜ?」
長男「テレビを見ているときがいちばんアイデアが浮かびやすいんだ。だから、テレビを見ながら作ってる。」
ビジネスの世界では「何をやるか(to do)」ではなく、「どうあるべきか(to be)」が重要だと言われます。手段ではなく、目的が重要なんだと言われることもあります。
「何かを作るときはコンセプトが不可欠だ」という考え方もあります。コンセプトがないとブレてしまう、コンセプトに合わないものは余計でやらない方がいいものと見なされる、ということが起きます。
一方で、長男の粘土づくりには、目標やコンセプトのようなものはなくて、彼はテレビ見ながら湧いてきたアイデアを形にしているだけです。彼にはTo beはなく、To doしかない。それでも、作品を作って、完成させることができています。しかも、僕から見ると、かなり高いクオリティで。
あと、横で見ていて、作るのが楽しそうなのがいいなと思ってます。完成した作品を僕に見せにくるときの誇らしそうな表情も、その作品をあっさり壊して、次の作品にとりかかる身軽さもいいなと。
という、長男の作品づくりに対する自由さに影響を受けつつ(憧れつつ)、僕も本屋、楽しそうだなと始めることにしただけで、何かを目指してるわけじゃないなと改めて思いました。
ということで、「火星が出ている」はコンセプトを設定しないことにしました。
書店として何か、素晴らしいどこかを目指すことはせず、僕自身が、本屋をやることの楽しさを日々感じられることを大事にしていきたいなと思ってます。ユーザー・ファーストじゃなくて、自分・ファーストなので、だいぶ気まずいんですけど、でも、今はこれが自分にはフィットする気がするので、これでいきます。
選書に関する考え方
選書、マジで難しいです。何がいいのか、全然わかりません。コンセプトもないし。これ、みんなどうやってるんだろう。。
今はなんとなく、以下の9つの視点で本を探しています。
①言語から離れる
②人生に触れる
③物語に浸る
④思索にふける
⑤社会に分け入る
⑤仕事がんばる
⑥日々暮らす
⑦性に踏み込む
⑧旅に出る
⑨言葉を楽しむ
以上の視点で探した後に、「自分が過去に読んでおもしろいと思った」、「自分が信頼している読み手、作り手がおもしろいと勧めていた」または「自分はまだ読んだことないけど、でも、読んだらおもしろいと思う(だから、今は僕の代わりに誰か読んでおいてくれ!)」のどれかに当てはまるものを選んでいます。
なので、棚にある本は、全部オススメです!
販売に関する考え方
まとまってないですが、以下のようなことを考えて、本を売っていきたいと思ってます。
売る方も買う方も気持ちいい価格を設定する
この前、お客さんに「自分が読みたいと思っていた本が古本ですごく安く売っていると悲しくて買えない」と言われて、僕がずっと思ってた気持ちが初めて言語化されて、ちょっと感動しました。そう、本当に、ずっとそう思ってた。
なので、火星が出ているでは、仕入れた本を売り手と買い手が気持ちよくやりとりできるような、いい感じの価格で売りたいと思います。古本の取り扱いが多いのですが、例えば100円本を置いて集客する、みたいなことはやらないです。
「安く仕入れて高く売る」が商売の基本を少し外して、「安く仕入れていい感じの値段で売る」を目指したいです。
作品として状態のよいものを揃える。店では丁寧に扱う。
できるだけよい状態のものを仕入れて、販売できるようにしていきたいと思っています。農産物や海産物を販売するのと同じです。
一期一会になるように、同じ本を同時に複数棚に置かない。
店頭での体験が「買う」というよりも「出会う」という感じになるといいなと思ってるので、出会いの機会を増やすためにも、そこから一冊の本を選ぶという機会を作るためにも、同じ本を複数冊置かないことにしました。
ネット販売はしない。
「本屋で本を買う体験をする人を増やしたい」と思っているので、ネット販売はやりません。その分、いい棚を作ることにリソースを投入します。
さいごに
今回、本屋を始めるにあたって、そもそも本屋って何がいいんだっけ?と改めて考えてみました。Amazon、超便利だし、わざわざ本屋に行くのってめんどくさいなあと思うし。暑いし。
でも、本屋じゃないと出会えないなあと思いました。何に?大きく言えば、世界に。
スマホだと検索はできるし、アルゴリズムはおすすめもしてくれるけど、それだと「出会い」にはちょっと足りない気がします。
本屋に行って、棚を眺めたり、本を手にとってみたり、何を買うか迷ったり、これだ!とビビっときたり、しっくりくるものがなくて残念だったり。そういういろんなことが起きることが「出会い」には必要なんじゃないかなあと。
そんなことを考えながら、本屋をやっていきます。僕も、あなたもここで出会えるといいですね。
どうぞよろしくお願いします。
店舗情報
火星が出ている(本店・本屋の実験室内)
東京都杉並区高円寺北3-5-17
営業時間:12:00-20:00(月曜定休)
https://www.instagram.com/ kaseigadeteiru
(@kaseigadeteiru)
書店名は、高村光太郎の「火星が出てゐる」という詩にちなんでつけました(ちなむというか、そのままですけども)。この詩がすきです。自分の弱さを滅ぼしたいし、正しい原因に生きたい。
おまけ(店主情報)
今井峻介
1984年生まれ。妻1人と子2人の4人暮らし。自宅でこどもたち2人ホームスクーリングをしながら、個人事業主として社会問題解決に関わる企業や団体のサポートをしてます(事業開発とか組織開発とか調査研究とかいろいろ)。
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