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映画「恋に落ちたシェイクスピア」 うまくいく!謎だけど。

「ロミオとジュリエット」を観ると狂おしくなる。

劇場を出るとき”オレも死にたい”という興奮に駆られるのは、この物語の疾走感のせいだ。

若きふたりは出会って4日目に死す。

でもそれが短いとは思えないし、かわいそうなんてもっと思えない。

出会って翌日に結婚し、4日目にロミオは毒をあおり、ジュリエットはロミオを追って「おお、ありがたい剣、私の胸がお前の鞘、この胸にお帰り」と自刃する。5日目、二度と悲劇を起こすまじと対立する両家が和解を決断する。

愛は歳月に褪せていくが、ふたりは互いの魂を抱き合って最高潮のまま消えていった。

「ロミオとジュリエット」は悲劇ではあるが、こう死んでみたいという狂喜の物語とも言える。

映画「恋に落ちたシェイクスピア」は、本家の「ロミジュリ」を上回るような疾走感と狂喜を巻き散らす。

やんちゃな劇作家シェイクスピアと厳格な家柄のヴァイオラの出会いは、「ロミジュリ」とクロスオーバーしながら、さらに”演劇の夢”も加わってドライブしていく。

シェイクスピアとともに舞台に関わる登場人物たちはみな粋だ。看板役者のベン・アフレックは自分の役が小さくなっても「ロミジュリ」の成功を優先するし、ライバルであるはずの隣の座長は「ロミジュリ」上演のために体を張るし、端役の役者たちにいたるまで舞台の魅力に憑りつかれる。

金策や弾圧で「ロミジュリ」上演は何度もピンチになりながら、劇場オーナーは「うまくいく!謎だけど」と根拠のない楽天性で切り抜けていく。

観衆の待つ舞台に颯爽と出ていく役者たちをとらえるキャメラアングルに痺れる。

キャメラは舞台袖から役者をとらえている。フレームには役者が対面している観衆たちの表情も映りこむ。役者たちの緊張と恍惚がこちらにまで伝わってきて興奮する。

登場人物たちは舞台が大好きで、私たちも映画が大好きで、だからそんな彼らを好きにならずにいられない。

いつしか「最期の映画はこれがいいなぁ」なんてことを考えている自分がいる。オスカー7冠。そんなことはどうでもいい。ボクが好きな映画の楽しさがここにある。

一番幸福を感じたのは、ヴァイオラ演じるジュリエットが起き上がったとき観衆たちからいっせいに「はぁ!」という嘆きと悲鳴の声があがった瞬間だ。

これから起きるジュリエットの哀しみを本気で案じる観衆たち。そばに横たわるロミオをジュリエットが見たとき、思わず客席から「dead!(死んじゃったんだよ)」と声がかかる。

「演劇は風に書かれた文字である」。苛烈な人生をいっとき忘れ、みなが”一炊の夢”を見ている。私たちはきっとそんな瞬間が本当に好きなのだ。

「ロミジュリ」は愛が褪せるよりもはやい速度でふたりが死んでいった物語だ。では本作はどうなのか。

ふたりは死なないし、結ばれることもない。
ヴァイオラは遠くに旅立っていかなければならなくなる。

しかし、ここに意義がある。

シェイクスピアはいつかまたヴァイオラに会うという目的で明日を生きることができる。ヴァイオラもしかりだ。だから愛は褪せない。そして生きていける。 

ヴァイオラは新天地の草原を遥か彼方までひとり歩く。

はたして本当にそんなにうまくいくのか。

彼らなら言うだろう。

「うまくいく!謎だけど」


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