振り返り : "製造業の変革"を目指し、ようやくスタートラインに立った一年。
今年、約1年半かけて、転職してからやりたかったことのスタートラインに立てました。そういう意味ではとても感慨深い一年だったので、振り返りの記事を書いてみます。
2018年 Join後の希望と現実
遡って二年前、大手の研究所を辞め、スタートアップに転職しました。
その理由は1年前も、2年前も書いてある通りで、再再掲です。
3年間、データ分析、機械学習、ディープラーニングと、いわゆる"AI"と呼ばれるものを必死で学んだ結果、「集まったデータを料理するよりも、まだ集めていないデータを集める側に回りたい」という思いが強くなり、i Smart Technologies(iSTC)にJoinしました。
初めて話を聞きに行ったとき、製造業というリアルな世界からデータを集められるということは、当時の僕にとってとても魅力的で、その先にある世界を想像するだけでワクワクしたのを覚えています。
さて、そうして新しいデータに可能性を求めて転職したわけですが、今だから言える話、内情はそれなりに大変でした。「データ集積のインフラは整っているから、そっちは徐々に勉強しつつ、データの適用可能性を模索するのをメインでやっていこう」という気持ちで入っていた僕は、恥ずかしながら入社当時インフラに関する知識をほとんど持ち合わせていませんでした。
当時のiSTCは、旭鉄工のカイゼン活動の延長線上にIoTサービスがあるだけで、ソフトウェアや分析技術に関する知見を持った人はいませんでした。その体制でサービスを作り上げた根性と工場での成果は素晴らしいものだったのですが、結果としてそのしわ寄せは急激な顧客拡大とともに現れます。きっかけは下記記事とNHKでの放送です。中小企業のリアルな悩みと、解決の可能性を"50円のセンサ"で示したというインパクトに、工場の方々が共感してくださり、おかげさまでデモのお声がけを多数いただきました。
デモが多くなると、自ずとシステムで取り扱うデータと計算リソースは増大します。しかし、適当な性能見積もりとスピード重視で冗長性意識の欠如のもと作ったインフラは、あらゆる箇所で性能の不足・性能劣化を起こします。サービスはいつトラブるかわからない。戦時中のバルカン半島といったところでしょうか。システムは「気にしなくても当たり前に動く」から利用されるのであり、その当たり前が難しいからこそ、多くの企業が苦心し、投資を行うところです。そこを疎かにした前システムでは、デモ中の障害は致命的になり、あと一歩で契約を逃すケースが多発しました。(当時のシステムであっても、根気強く使い続けてくれているお客様には頭が上がりません。アップデートによりサービスの質を向上していくことが、我々にできる最大の恩返しだと思っています。)
入った当初、何もわからない僕がまずやったことは「障害の見える化、即時対応の仕組み構築」で、リソース不足になるとSlackに通知が飛んでくるようにしました。おかげですぐに異変に気づくことができるようになりましたが、代償として連日深夜1時2時にアラートが鳴り響くことになります。当時、逃げるように向かって入った下呂温泉は束の間の癒やしでした。(このあたりの深い話が聞きたい人は、お酒でも飲みに行きましょう。)
ギリギリのトラブル対応しつつ、「このままでは駄目だろ。」という気持ちが次第に高まっていき、かくしてサービスの抜本的改革を行うに至ります。
2019年 "iXacs"開発
2019年1月から、新サービス"iXacs"の開発が始動します。2018年に洗い出した問題点は色々あったのですが、特に意識したテーマが以下の3つでした。
1. インフラの信頼性が低い、典型的な「運用でカバー」状態
⇨ 運用コストを下げるため、なるべくマネージドなAWSサービスを適用。通信の信頼性を上げるため、エッジで動作する端末の見直し。また、障害発生時に、センサー・無線送信機・ゲートウェイ・クラウドどこの問題なのか切り分けが簡潔に行えるように設計。
2. サービス設計がうまくなく、ユーザーが設定すべきこととサービサーが提供すべきことが混在している
⇨ 現場(旭鉄工)の意見と、iSTCの運用担当者の意見を聞き込みながら、設定権限の線引きや、UIの改善を行う。「神は細部に宿り、迷った最後の決め手はこういう細部のユーザー体験に現れる」を意識する。
3. 開発からデプロイまでの流れが規格化できておらず、バグフィックスや機能追加に時間がかかる。
⇨ 今後のサービス追加も見据え、各サービスがなるべく疎な結合になるように設計。また、週一回のバグフィックス、月一回の機能改善を行うに当たり、開発⇨検証⇨デプロイのルールを明文化。
このようなシステム開発は自分にとっても未経験で、勉強したりいろいろな人の話を聞きながら進めていったので、これらのすべてのテーマが完璧に解決されたとは言えません。しかし、大幅な見直しや手戻りなく進めることができました。
工場の大型連休といえばお盆です。それまでになんとかサービスの更改を行い我々は、7-8月にかけては怒涛でした。IoTサービスがソフトウェアオンリーのサービスと違うところは、ハードウェアを抱える点にあります。そのため、調達の納期や工場に送付するリードタイムを考慮しなければいけません。お盆に更改するということはその2週間くらい前には種々の検証とセットアップは終わっているのが理想なのですが、もちろんそういうわけにも行かず、お盆前の2週間は技術チームみんなで深夜1時2時まで最終セットアップと検証、各工場に送付をする準備を行っていました。体力的にはきついものでしたが、しかしこの2週間は2018年の深夜労働と違い、とても希望に満ちていて、また充実した時間でした。(このあたりの深い話が聞きたい人は、お酒でも飲みに行きましょう。)
無事既存顧客の更改をお盆前後で完了したiXacsが、公に新サービスとなるのは9月12日でした。会社の創立3周年の日に、外向けの会社イベントを開催し、デモを行いました。以前のシステムだと、怖いので動画を写すことも多かったのですが、ここは開発者としての意地か矜持か、新システムはリアルなデモをやりたかった。滞りなくデモが動いたときは、得も言えぬ達成感でした。
リリースしてから今まで、大きな問題もなくシステムは稼働し続けていて、月一度のアップデートも行っています。ようやくデータを整えるインフラが整備され、その後の展開に注力できるときが来ました。2018年で描いていた未来に向けて、1年半ほどかかりましたが、ようやくスタートラインに立ったわけです。
2020年 製造業の価値観を壊し、文化を作る
さて、それではスタートラインに立って、何をやりたいのか。
目指すのは「製造業に"つながる"文化を」です。僕は、情報系の世界に入ってからITやアカデミアの「巨人の肩の上に立つ」という文化が好きになりました。世の中の課題を解決するために、ノウハウを共有し良いものを創っていこうという文化。そのようにして業界全体が面としてどんどん発展するのを目の当たりにし、このような考え方を製造業にも広めたいと思ったのです。
ぶっちゃけ、工場のIoT化が「自社工場内の可視化」にとどまるのであれば、それは内製で実現できると思います。現在ではIoT技術の民主化が進んでいるので、少し技術を持った人が集まれば数ヶ月もあれば可能です。そのような中で、我々がSaaSとしてIoTサービスを提供する価値は「集約されたデータ」に求められるようになってくると思います。
iXacsで取り扱う"製造業の改善活動のデータ"というのは、ある種地味な分野かもしれません。しかし、どこの工場にも存在する共通の問題であり、地味だけど素早く、しかも確実に効く分野です。個あたり30秒のものを29秒にするだけで、生産性が3%上がる。それが技術でなく整理整頓という工夫で実現したりするのです。「どこの工場にも存在する共通の問題」だからこそ、共有し、つながっていくことで巨人を創り、肩の上に乗ることができるのです。
とはいえ、文化の変革は、非常にチャレンジングな課題です。日本の製造業に情報の取り扱いに関して閉鎖的な雰囲気があることは否めません。確かに、データやノウハウの流出で致命的な損害を被ることもあり、取り扱いに関しては慎重に行わなければいけません。情報の共有に対して数々の課題がありますが、それでも、製造業がつながり、協力することで業界全体が底上げされるだろうと信じています。そしてそれは、工場のデータを集積していて、そのデータを現場でどのように活かせばいいか、誰よりも近いところで、どこよりも考えているiSTCだから実現できる変革だと思っています。
僕の仕事は、IoTやソフトウェアの技術を用いて、製造業の既存の価値観を壊し、あたりまえにつながっていく世界を実現することです。そのために現行サービスの改良や、新規サービス開発を進めています。そして、このような世界を共に目指すメンバーを随時探しています。(このあたりの話が聞きたい人は、お酒でも飲みに行きましょう。)
目指す世界に向かって、ようやくスタートラインに立てた一年。翌年からもどんどん仕掛けて行くので、今後ともどうかよろしくおねがいいたします。
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