『ボードゲームよもやま話』メカニクスの最小単位について
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■メカニクスの最小単位を意識する
ボードゲームにおいて一般的にメカニクスというと「ワーカープレースメント」とか「エリアマジョリティ」とか「ドラフト」「デッキ構築」などといった大きな括りの事のみを指すことばだと思われがちです。
あらためて言うならば「ワーカープレースメント」のような括りはメカニクス同士の組み合わせで特徴的なものを名付けたものになります。
今回の記事内の一部では、これらよく使われるメカニクスを大メカニクスと呼称し、より小さなあまり言及されないメカニクスを小メカニクスと呼ぶこととします。
例えばドミニオンにおいて言えば手番中に手札から
「購入」+「手札のプレイ(アクション)」+「手札のリフレッシュ」
というような小さなアクションから成り立っています。
それら小さなアクションもまたメカニクスであり、「デッキ構築」という言葉はその組み合わせで成り立つ小メカニクスをまとめ上げているに過ぎないのです。
「これは◯◯のメカニクスとは言えない」
「◯◯のメカニクスを勉強したい」
小メカニクスをまとめ上げたものとしての大メカニクスにこだわりすぎると細部が見えてこなくなってしまいます。確かに大メカニクスに分類することはボードゲームの仕組みを理解する事に有効であると思いますが、それにこだわり過ぎる事やその下により小さなメカニクスがある事を認識しづらくなってしまいます。
そのような意図で今回は「メカニクスの最小単位」というテーマで記事を書いてみます。
■ワカプレで考えるメカニクス
⚫️スタートプレイヤーにみる差異
ワーカープレースメントにおいてスタートプレイヤーがどのように変更されるのかはそれぞれのタイトルで違ってきます。今回の記事テーマに引き寄せて言えば「ワーカープレースメント」においてはスタートプレイヤーの変更の仕方は固定化されたものでなく、タイトルごとに採用される小メカニクスが変わると言ったところでしょうか。
ワーカープレースメントは基本的にラウンドごとに有限のアクションを奪い合うシステムです(もちろんそうではないデザインも多くあります)。そして、その性質上スタートプレイヤーがそのラウンドで一番選択肢が多くあり有利になると言えます。
つまり、スタートプレイヤーをどのように変更されるかはそのワーカープレースメントの大きな個性の表現とも言えます。
例えばアグリコラについて言えば次のラウンドのスタートプレイヤーの権利を得るアクションがあります。そのアクションは通常の他のアクションよりも少し弱いものとして設定されていて、そのアクションをするプレイヤーにとってはジレンマのあるものとなっているかと思います。
ヌスフィヨルドではスタートプレイヤーは順番に変更されるようになっていて、デザイナーが考える公平性に基づいてスタートプレイヤーが回ってくる形が取られているように見受けられます。
先述のアグリコラの例ではスタートプレイヤー自身にジレンマがあるのは良いのですが、その前後のプレイヤーにとっては利益と不利益の差が激しすぎるものになっていて、時計回りにそのアクションを実行する前後かで変化が大きすぎるという評価もあります。
その点で考えると固定された順番でスタートプレイヤーが変更されるのは平等ではあります。
ロレンツォ・イル・マニーフィコではアグリコラと同じように手番順を変更するアクションスペースに自分のワーカーを置く。そのアクションには資源獲得などで他のアクションよりも少し弱い効果が付随している。
ただし、アグリコラと違いそのアクションスペースに排他性が無く、後からでも置くことが出来て(時計回りではなく)手番順マーカーによってプレイの順番を決めているので自分の関与しない手番順の差が生まれないようになっている。ただし、結局は後手番が弱い手番順アクションを早い段階で取らなければいけないことから、結局は手番順が先だったプレイヤーの利益が強固になっているという見方もある。
これらワーカープレイスメントのスタートプレイヤーをめぐる部分だけでもいろいろな差異があり、メカニクスを考える時にはこういった小メカニクスがゲームの中でどのような影響を与えているかを考える事の方が、「これはワーカープレイスメントの定義に入るゲームなのだろうか?」などといった大メカニクスに拘泥することよりも生産的かと思う。
⚫️即時解決と後解決のワカプレ
以前の記事内でも書いた事があるがワーカープレイスメントにはアクションの効果解決が即時解決のものと後解決のものが存在する。個人的には昔のワーカープレイスメントには後解決のゲームが多く、現在のワーカープレイスメントでは即時解決のゲームが多い。もしくは、固有の仕組みを使ったような後解決のゲームが多い。
ドミナントスピーシーズはワーカープレースメントとエリアマジョリティを組み合わせたようなゲームです。アクションの場所にまずワーカーを置いてから、後のフェイズで決まった順番でその置かれているワーカーを解決していきます。
先々の流れを見通してからワーカーを置いていかないと、アクションを解決する時には十分に実行できなかったりするので、相手のワーカーを見て何が起こるのか予測をしてプレイしなければいけません。
後解決型のワーカープレイスメントはドミナントスピーシーズ以外にはカーソンシティ、エイジ・オブ・エンパイア3(エイジ・オブ・ディスカバリー)ケイラス、などがあったりします。
即時解決型のワーカープレイスメントはおそらく現在は主流となっているかと思います。ワーカーをアクションスペースに置く事によって即時に効果が発動します。
タイトルで言えばアグリコラやヌスフィヨルド、カヴェルナなど様々です。
即時解決型と後解決型との対比で言及出来るゲームとしてウォーターディーブの領主たちというタイトルがあります。これはTRPGのダンジョンズ・アンド・ドラゴンズの世界観をテーマとしたワーカープレイスメントで、即時解決型のワーカープレイスメントとなります。ですが、一部のアクションプレイス(「ウォーターディーブ港」)ではそこに置いたワーカーはラウンド終了時にもう一度別の空いている場所に移動して効果を得られるという後解決の効果があり、即時解決と後解決のハイブリットとも言えます。
また後解決型のワーカープレイスメントは配置フェーズと解決フェーズが単純に分かれているだけのものとして分類したが、そうではないより細密に効果のタイミングを設定していたりするワーカープレイスメントが存在する。
ツォルキンでは手番でワーカーを置くか、ワーカーを回収してアクションの効果を得ることのどちらかが選択出来る。そこにはきっかりとした配置フェーズや解決フェーズやそもそもラウンドの概念が一般的なボードゲームとはことなっている。
こういったタイプのワーカープレイスメントではアクションの選択肢の枯渇の仕方が変化する。ラウンドがある後解決のメカニクスではラウンド中のアクションは後半になるにつれて枯渇するが、ツォルキンのようなワーカープレイスメントでは効果的なタイミングでワーカーが使用されていくので随時解消されていくことが多い。
このような後から効果を解決するが細かなルール変更が加えられているものを、先述している後解決型ワーカープレイスメントと同等のメカニクスとして語る事に無理があることは理解いただけると思う。
⚫️メカニクスへの名付け
即時解決と後解決の例で言えば、これら2つの区別は特にされておらず、メカニクスの名付けというものは割と場当たり的に行われている。まあ、普通に人々の間で新しい言葉が出来ていく過程と同じように自然発生的に起こるだけだとも言える。
まあ、なのでメカニクスについては生物学分類や元素記号のような自然科学の分類のような強固なものとして捉えるべきではないと考えている。
『ボードゲームよもやま話』#3 勘違いされやすいカードドリブン
以前の記事でも書いたがカードドリブンというメカニクスはボードゲームの一種であるウォーゲームの分野の中でのアクション選択をカードで行うようなシステムのことを指す。
ウォーゲームにおいてはカードによってアクションを選択することが一般的でなかったことから(*このあたりウォーゲームに不案内なのでエビデンス不足だけれど)カードドリブンというメカニクスが言われるようになった。
そしてカードドリブンという言葉だけが独り立ちすることによって「ウォーゲームにおいて」という但し書きが抜け落ちて語られることや、カードドリブンのゲームとして有名なトワイライト・ストラグルのカードプレイシステムを指して(1枚のカードで複数の位相での使い方が選択出来るカードプレイシステム)それをカードドリブンだと誤解して説明されるようになってしまう弊害が出てしまっていた。
ボードゲームであればカードで手番アクションを決定することは割と普通のよくあるシステムであるため、元のゲームの様相から想像してカードドリブンの定義を考えてしまっている。
ちなみに現在でもカードドリブンのゲームは出ている。それが主計将校。
ゲームの説明にはウォーゲームであることと同時にカードドリブンのシステムであることが書かれているが、伝言ゲーム的に「ウォーゲーム」であることが抜け落ちて伝わることがよくある。
このような例があることからメカニクスについてはその来歴や、実際どのようにシステムが動いているかなど内容を知って考えることの方が必要かなと思う。
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