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無機能で無意味、でも無価値じゃない。

ケーキなのになぜかもけもけしたファー素材でできているし、びっくりするほど軽くて簡単に風に飛ばされそうだ。この記事を書いている8月末現在、このピンクのマスコットはいよいよ無意味なモノとなってしまった。

これは『ハリー・ポッターと賢者の石』でハグリッドがハリーに贈った手作りの誕生日ケーキ、通称「“たんじょびィおめでとハリー”ケーキ」のキーチェーンマスコットだ。
7月末、赤坂ACTシアターで上演されている舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を観に行ったときに、同じく赤坂にあるハリポタグッズショップ「ハリー・ポッター マホウドコロ」で見つけてひとめぼれし、購入した。

ケーキに合わせたピンク色のボールチェーンがついている

7月31日は“生き残った男の子”ことハリー・ポッターの誕生日とのことで、7月に入ってからはハリー・ポッター関連の場所はどこもかしこも、このケーキをモチーフにしたあれやこれやで溢れていた。
実際に食べられるケーキはもちろん、クッキー缶やらキャニスター、バッグにポーチ、マグカップから文房具まで多種多様。ちょっとあやかり過ぎではないかと思ったが、これだけキャッチーなアイテムだ。商品化しまくらない理由がない。私も商品開発チームの一員だったらこのケーキに目をつける。

それらのケーキグッズはどれも、機能を持たされていた。入れ物だったり文具だったり。硬い素材のキーホルダーもあって、しっかりとした金属金具がついており頑丈そうである。

ところが、こいつはどうだ。

はっきり言って、なんの機能もない。
商品名には「キーチェーン」とあるが、こんな頼りなさそうなボールチェーンに、大事な鍵は託せない。質感的にもすぐ汚れるだろう。役に立ちそうな機能をなにも持っていないこやつを、私は1,980円も出して購入してしまったのだ。

そもそも、ケーキをマスコットと呼んでいいのか?ふつうマスコットといったらキャラクターだろう。
「マスコットキャラクター」と言うくらい、マスコットとキャラクターは切り離せない。試しに【マスコット 食べ物】で画像検索してみたが、ほとんどが食べ物モチーフに目がついておりキャラクター化されている。

大辞林で「マスコット」を調べてみると「幸運をもたらすものとして、身近に置いて愛玩する小動物や人形など。」とあった。goo辞書には「幸運をもたらすお守りとして身近に置いて大切にする物。多くは人形や小動物。」とある。「など」「多くは」と書かれているので、人形でも動物でもないただのケーキも、幸運をもたらすものとして「マスコット」のメンバー入りは可能なようだ。

確かにこれは、ハリーにとって幸せの象徴のひとつだろう。なにせ物心がついてからはじめてもらった誕生日プレゼントだし、スペルが間違っていても、クリームになぜかヒビが入っていても、毒々しい色であっても、そこにはハグリッドからの親愛が詰まっている。
ハグリッドが現れる直前、ハリーはひとり地面にバースデーケーキの絵を描いて、自分で自分にお祝いを述べるのである。そんなシーンの後に登場するハグリッドとこのケーキ。ハリーはどんなに嬉しかっただろう。

映画『ハリー・ポッターと賢者の石』より。ハリーとハグリッドの出会いのシーン

しかし、私はごまかされない。
ケーキだというのに、どうしてこんなに毛足の長いファー素材を採用したのか。ケーキというより、つぶれたおしゃれテニスボールだ。『ハリー・ポッターと賢者の石』を知らないひと100人に「これ、なんだと思う?」と聞いて、「ケーキ」と答えるひとはいないだろう。そもそもこれはなんなのか。100人とも「・・・?」となるだろう。

しかもこのマスコットは、両手にのせると、ふわふわと浮かんでいるのではないかと錯覚してしまうほど異様に軽い。これぞまさにフェザー級だ。フェザーな質感と見事にマッチしている。いやちょっと待て。なぜマッチさせてしまったのか。ハグリッドが作ったのだし、きっとずっしり重いはずだ。

そうか、このマスコットは、ケーキを再現する気などさらさらないのだ。色と文字こそ映画のケーキに習っているが、「かわいい存在」であることに全振りしているのである。
この大胆な商品企画に、私は脱帽せざるを得ない。

けしからん質感だ
ふわふわで大変気持ちいい

ところで皆さま、お気づきだろうか。
これは7月31日の誕生日を祝うケーキなのだ。1月に現れるサンタ、2月から飾り始める鏡餅と同様、1ヶ月以上過ぎた誕生日ケーキは無意味である。しかもこれから来年の7月まで、さらに無意味度は加速していく。8月より9月、9月より10月、このケーキを持つ意味はどんどんなくなっていく。

実に無機能で、無意味である。
だが、無価値ではない。

手に持つと、すごくやさしい気持ちになる。軽くてふわふわしていて、大事に持たなければいけないことが、触った瞬間にわかる。片手で雑に掴むことなどできない。両手で包み込むように持たなければならない。生まれたての小鳥のように。

このなんの役にも立たない自称ケーキのマスコットが、「愛おしい」という気持ちを呼び起こし、今日も私を癒してくれるのである。


なんとまだ購入可能
「ハリー・ポッター マホウドコロ」公式オンラインショップ

「たんじょびィおめでとハリー」ケーキの作り方
「ワーナー・ブラザーズ」公式サイト

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