宇宙を旅した幻のそば 地元の中学生5人が守る味
少人数学校の特色を生かした体験型授業
2017年3月末に避難指示区域解除となった福島県伊達郡川俣町の山木屋地区にある町立山木屋中学校は、全校生徒数5名(1年生1名、2年生2名、3年生2名)という小規模な学校です。少人数の学校の特色を生かし、生徒一人ひとりの個性に応じた丹念な学習指導を実施しています。なかでも注目されているのが体験型授業。山木屋太鼓(和太鼓)演奏や、田んぼリンクでのスケート教室など少人数だからこそできる取り組みが満載なんです。そんな体験授業から今回は地元住民との交流から生まれる特別な授業をご紹介します。それは地元生産者で構成する山木屋在来そば振興組合(以下、振興組合という)と連携したものです。幻のそばと言われる山木屋在来そばを題材に種まきから収穫、そば打ちまでを年間を通して行う体験授業です。
絶滅の危機を超え宇宙を旅した幻のそば
山木屋在来そばは、もともと地元農家の方が自分で食べるために栽培してきました。そのため生産量が少なく「幻のそば」と言われています。さらに、2011年3月に発生した東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示により山木屋地区が避難指示区域となったことから一時期生産が途絶えてしまいます。震災後約7年間は山木屋地区で幻のそばが収穫されることはありませんでした。避難指示区域解除後、2018年に福島県農業総合センターで保存されていたわずか4kgの種子を使用して山木屋地区で生産を再開し少しずつ作付け量を増やしてきました。香りがよく、そば独特の風味を存分に堪能できるのが「山木屋在来そば」。多くの困難を経て復活したこのそばをなんとかこの地の名産地にしたいと振興組合は考えていました。そんな中、2021年に山木屋在来そばは宇宙を旅します。「東北復興宇宙ミッション2021」(https://www.reconstruction.go.jp/10year/one-earth.html)の宇宙へ行く記念品に選定されたのです。東北の各地域から選ばれた作物の種とともに「山木屋在来そば」も宇宙を旅し、そして山木屋地区に戻ってきました。この「宇宙を旅したそばの種」から着想を得て、「山木屋在来そば」は2022年に「高原の宇宙」という名前で商標登録されます。未来を担う特産品の種が生まれた瞬間でした。
僕らが守る「高原の宇宙」
山木屋中学校では校内にある畑で「高原の宇宙(山木屋在来そば)」の栽培をしていて、その一部は宇宙を旅した種を使っています。地元そば栽培農家の指導のもと、生徒自らが種まき(7月頃)や収穫(10月頃)、最後はそば打ち体験と試食をという、3ヶ月をかけた体験授業です。実は、宇宙を旅した種は9g(180粒ほど)でした。2021年から校内の畑でこのわずかな種の栽培を始めています。3年目となる今年10月には23kgも収穫できたのです。23kgと聞くと、多そうに感じるかもしれません。しかしこの23kgのそばを食べてしまうと、翌年には十分な種を蒔くことができません。そこで宇宙を旅したそばは来年の種植え用に保管することにしました。いつか宇宙を旅したそばで「そば打ち」をし、みんなで食べることが目標です。
種を植えてから食べるまでを学ぶ
今年(2023年)は11月10日にそば打ち会を開催しました。振興組合の広野隆俊さん、菅野富雄さんを講師に迎え、ねりや延し(のし)、切り方など生徒一人ひとり丁寧に個別指導をしてもらいました。初めて参加する1年生含め5人の全校生徒たちが最後のそば茹でまでの工程を終えることができました。 また、今回は生徒さんのほかに、春に赴任された教職員も参加。今年はそば打ちが3回目となる3年生の生徒から教えられるような一幕もありました。生徒だけではなく学校全体での和やかなの取り組みは少人数の学校だからこそできる貴重な学習の機会だと感じています。初めて参加した1年生の生徒は「初めてなので力加減が難しい。均等に切る時は力が必要で大変」とそば打ちの難しさを実感していました。また、試食をした3年生の生徒は、「風味の強さともちもち感が良く美味しい」と満足な表情でした。講師を務めた菅野富雄さんは「地元中学生や先生方と山木屋在来ぞばを繋いでいく取り組みができることは大変有難い」と話しています。
こんなにおいしいのに僕らが食べるだけだなんて「もったいない」
そば打ち体験以外にも、調理実習の授業では山木屋在来そば粉を使用したアレンジレシピの考案にも取り組んでいます。同じ小規模校である葛尾村の葛尾中学校との交流において、「凍み餅&高原の宇宙そばのピザ」と「凍み餅&高原の宇宙そばの蒸しケーキ」のレシピを考案しました。また、山木屋中学校だけでも「蕎麦粉クレープ」や「雪解けそばドーナツ」の考案を行い、学校ホームページにて公開しています。
※山木屋中学校ホームページ「そば粉アレンジレシピ」https://www.town.kawamata.lg.jp/site/yamakiya-sho-chu/list138-897.html