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ある莫迦の憧れに憧れた今まで やり直し 10

 ご無沙汰。
 公開停止処分以降さてどうしたものかと。
 まだ虚ろな頭でいまいちまとまっていませんでな。
 ただ、少しは続けてきたのだから、ここで放り出したくもない。
 ね?
 という訳でここは少し気分を変えて、手紙でも書いてみようかと思うよ。
 誰に宛てたというものでもない。
 いや、誰かに宛てたものなんだろうけど、その誰というのが今まで僕の会ってきた多くの人々の集合体とでもいうのかな。
 そんなもので。


 やあ。
 ようやく作業所へ通えるくらいには回復したよ。
 目を付けていた場所でね。退院してからは忙しかったよ。
 先づ、その時はまだ今よりずっと歩けなかった。だいたい一人暮らしできるのかどうかも分からない状態からのスタート。
 何とか実家を抜け出し、元のアパートへ帰ってきて関係各所への連絡、相談。
 作業所への見学、体験入所はできたけれど空きがそろそろ埋まるということでさ。役所の担当さんを急かしてぎりぎり入れたんだ。
 作業所ってのは面白いもんだよ。
 障害ってのは先天性のものと後天性のものがあるだろう?
 後天性の障害者ってのは健常者でいた時期があるんだよ。
 だからね?同じ障害者でもそこに見えない意識の差が出るんだ。良くも悪くもね。
 それに障害だって身体と精神で違うしね。
 先天性精神障害者と後天性身体障害者。
 利用者を見ているとこれが一番大きな差がある関係だね。
 後天性だって何歳でその障害を負ったかで変わる。
 それはそうでしょう?
 だって、小学生時代に障害を負った人と、社会に出て働いてから障害を負った人とでは見てきた、経験してきた世界が違うのだもの。
 社会で働いてきた人は作業所をきっちり職場として考えてるから、備品の位置を考え、作業効率を上げたりと作業する。「就労支援施設」をリハビリとして使っているから、いわゆる「仕事」として動く。
 一方、社会へ出る前に障害を負った人はリハビリではなく「訓練」として動く。
 これはものすごく大きな差だよ。
 だからね、「仕事」として一緒に動いているのに「訓練」として動かれると、やはり、苛つくんだと思うんだ。「仕事」の常識がない人と作業しなければならないんだからね。
 僕のいる作業所は複数の作業があるから、そこはスタッフさんによる利用者の割振が重要なポイントになるんじゃないかな。
 ああ、もう一つ抜けていた。
 知的障害者も通所しているよ。
 個人的に少し気になってるのは、身体障害の方の知的障害の方への接し方かな。障害者同士の中でも差別意識ってのはやっぱりあるようだね。そこはなんだか疲れてしまう時があるよ。自分に対してどうこうされるということはまだないんだけど、見ていてあまり気持ちのいいものではないさ。
 福祉というのはつくづく大変な仕事だなと思う今日この頃だよ。

 話は戻るけれど、上に目を付けていた作業所と書いたでしょう?
 元々何の流れでこの作業所を知ったのかよく覚えてないのだけど、外科で入院する前に別の精神科病院で休養していた時にもう一度働きたいと思って一番近くの作業所を検索したのだったかな?
 とにかく、近所にあったから調べてみたのさ。そうしたらスタッフさんの一人と繋がったのだけど、個人で作曲して発表していてね。それだけでもう頭は決まっていたよ。ここに通おうとね。
 元々は精神障害の僕だけど、今は右手指と両足にも不具合が出てるから作業が出来なかったらどうしようという不安は大きかったよ。だいたい見つけた時には、また歩けるようになるかどうかも分からなかったしね。
 働きたいというのも大きな点なのだけど、もう一つ、とにかく人と付き合いたかったんだ。オンラインではなく、対面で。
 昨年の夏に倒れて入院するまでも酷いヘルニアでね、もうほとんど外出してなかったんだよ。出掛けるところは病院くらいなもんさ。それも家族に送迎してもらっていたから、外の人に会う時間がほとんどなかった。コロナも騒がれていたしね。
 僕は人が好きだからさ、一人でずっと篭っているのは性に合わないんだ。言い換えれば、ただの寂しがり屋なのだけど。対面じゃないとどうしても埋まらない気持ちってのがあるのさ。
 そこに作曲してるスタッフさんがいる作業所を極めて近所にあったんだから、もう舞い上がったよ。少しでも話ができて工賃も出るんだから行かない手がないと思ったね。
 スタッフさん達はいい人達だよ。若い人が多いけど、みんな色々試行錯誤しながら施設を良くしていこうと頑張ってくれてます。僕はこういう施設を利用するのは初めてだから知らないのだけど、周りの他の作業所を経験してきた利用者さんやソーシャルワーカーさんに聞くとなかなかこういう作業所はないとのこと。
 当たりを引いたね。
 こう言っちゃなんだけど、僕はいい人達に出逢えるんだよ。昔からそうさ。外れは本当に少ないよ。
 ただ、その外れが大き過ぎて色々調子崩してしまったのも事実なのだけどね。

 近況をね、君に伝えようと思って筆を取ったのだけど、伝えたいことが多すぎて、とてもじゃないけどまとまりそうもなくなってきてしまったよ。
 つらつらと長くなってしまったけれど、僕は今、少しづつだけど、また回復してきているよ。
 君の方は最近はどうだい?
 時間があったらどこかで会いたいね。いつでもいいから連絡くださいね。
 また手紙を書くよ。
 いつになるかは分からないけれど。
 その時まで、お互い元気でいよう。
 気をつけていれば避けれる病気にはならないようにな。
 僕みたいにはなるなよ。
 じゃあね。

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