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ヘンテコ凛として生きる「番外編▷父」

写真は友人からお土産に貰った招き猫である。招き猫が好きだと常々公言しているので招き猫たちが集まってくる。
昨日、父が亡くなってスマホの中に父の写真は無いかと探していたら引っ越しで行方不明になっていたこの懐かしい招き猫がスマホの中から見つかった。肝心の父の写真は見つからない。「家族葬だし写真なんて要らんよ」と母が言う。

父は釣りが好きで山菜採りが好きで、果てしなく優しい人だった。
私が嫁ぐまでの21年間、一度も叱られた事が無い。
実家は母の両親と母の妹弟、そして私と弟。父は養子に入ったワケでは無いが、まさしくサザエさん一家のマスオさんという感じである。
両親のケンカ?は見たことが無い。サザエさんのように母が一方的に言うのを黙って聞いている父の姿しか思い出さない。そんな優しすぎる父が好きではなかった。何で反論しないのか、言いたい事を言えば良いのに。

大人になってやっと分かった。
6秒間の深呼吸を使っても自分の気持ちがコントロール出来ない私は父の足元にも及ばない。

小学五年か六年だったと思う。二人だけで近所のお寿司屋さんに行ったことがある。半世紀以上昔のことだから記憶は定かでは無いが、父に誘われた私は「行かん」と言った。父はさらにディズニーの腕時計を買ってやるとオマケをつけた。腕時計欲しさに二人で出かけた。嫌な娘だ!
今は何でも食べられるが、当時は生魚が苦手でせっかくのお寿司屋さんで稲荷寿司ばかり食べた記憶がある。
二人で出かけたのは、それが最初で最後だった気がする。
親娘デートのみならず、家族旅行さえ父は参加していない。
休みには父は一人で好きな山や海に出かけていたからだ。

もうひとつ思い出した。やはり小学生の頃、父と弟と私の三人で魚釣りに行ったことが一度だけある。
魚釣りに興味が無い弟と私は、釣竿を放ったらかし、その辺で遊んでいた。三本の釣竿を世話しながら父はそれでも満足そうだった。
父が亡くなった実感がわかなかったが、色々思い出しながら言葉にして行くと初めて涙が出た。

私はいつになったら、あの優しさに辿り着けるのだろう。

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