見出し画像

中卒男子が勝ち組だった時代

事実をもとにしたフィクションである。事例が一つだけなので、一般化は禁物だろう。それでも「古き良き時代」と現在の断絶が露呈した話とは思う。意外にありふれた一件かもしれない。

ある人の年収が、日本人の平均と同じくらいと知って驚いた。もう80代、仕事はとっくに辞めている。全てが年金なのである。本人は、中卒で働きに出たから企業年金が多いという。だとしても大した額である。

戦前生まれだから、「団塊」より少し前の世代。戦中・戦後の貧困から抜け出し、一族で初めて会社員になった。結婚して子供もでき、やっと手に入れた郊外の土地に、大工だった父親と力を合わせて家を建てた。

それから、およそ60年。何年も前に建て直した自宅は、田舎ならではの広さ。ローンは完済済みで、かつて田圃が広がった土地には、今や大型のショッピングセンターや巨大な病院が建ち並び、20分も歩かないでたどり着く。まさに勝ち組である。

片や同居する娘さんの年収は、平均年収の半分より下らしい。地方の事務職で、最近ようやく正社員になった。それ以前、手取りはさらに低かったとか。毎日普通に働いて、やっとこのくらいである。いわゆる氷河期世代で、過去には職を転々としたようだ。

もちろんお金だけが幸せではないし、各々は普通に満足した暮らしを送っている。それでも、こう考えずにはいられない。答えのない愚問と知りつつ。

我々は、いつどこで道を間違えたのか。

いいなと思ったら応援しよう!