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技術系の記事を30年くらい書いてきました。思いつきを、思いつくまま残します。

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最近の記事

ホモ・モビリタスの末路(完結)

承前 遊びに行ってやったのだから、文字通り骨折り損である。詳細は秘するものの、どう足掻いても武勇伝にはならない。踏み出した先が思いの外柔らかい砂地で、あっと思う間もなく左側にぐにゃりと曲がった足首に、どこかがグキッと一段ズレた感があった。動かすと衝撃が走る気がして、とりあえずその場でうずくまる。友達に助けてもらってようやく人心地つき、患部を冷やしつつ帰路に着いた。 「これまで感じたことのない痛さでしょ?」。レントゲン写真を見せる前から匂わされるので覚悟はしていたが、左足の

    • ホモ・モビリタスの末路(発端)

      いい気分で酔っている最中に水を刺すような連絡だったから、道ゆく人を振り返らせる大声だったとしても仕方ない。電話の先は実家の老父。いくら説得しても、頑として意見を変えないので、気がつけば声を限りに怒鳴っていた。宴席を離れ、雨天の軒下で、すぐそこを大勢の若者が往来する目の前で。 妹から入ったLINEによれば、同日午後に親父が交通事故を引き起こした。幸い本人も、同乗していた母にも怪我はなく、車両と相手方のカーポートに損害が出たくらいらしい。 問題は事故の内容である。電話に出た当

      • 中卒男子が勝ち組だった時代

        事実をもとにしたフィクションである。事例が一つだけなので、一般化は禁物だろう。それでも「古き良き時代」と現在の断絶が露呈した話とは思う。意外にありふれた一件かもしれない。 ある人の年収が、日本人の平均と同じくらいと知って驚いた。もう80代、仕事はとっくに辞めている。全てが年金なのである。本人は、中卒で働きに出たから企業年金が多いという。だとしても大した額である。 戦前生まれだから、「団塊」より少し前の世代。戦中・戦後の貧困から抜け出し、一族で初めて会社員になった。結婚して

        • ぶっちゃけ、AIって敵なの?味方なの?

          タイトルは後付けです。昔書いた原稿から削った文章をたまたま見つけて、もったいないので残しておこうと思った次第。ちょっとでも目を引くように、挑発的な表題を付けました。「ぶっちゃけ」とか慣れない言葉を使ってみたりして。 以下がその本文です。確か、これかこれを書いていた時に、「詰まるところ文章って、矛盾する二つの結論があっても、どちらも説得力を持って表現できる」ことを説明するために考えた話だったかと。首記のタイトルに即して言えば、「AIは人の敵である」「AIは人の味方である」のど

        ホモ・モビリタスの末路(完結)

          カスハラ野郎、再び

          これの続き。 その後の顛末を忘れないよう記録。 5日目に入って、Amazonのサイトで見ても、残り8冊は相変わらずライブラリに表示されない。ただし、昨日のやりとりで何冊かは無事読めるようになった。だから、また別の本を買ったらどうかと試してみた。 そしたらすぐにライブラリに現れるではないですか。iPadやiPhoneのKindleアプリには出てこないので、ライブラリから送ってみる。iPadはすぐに、iPhoneは何度か試した後にダウンロードできた。 念には念を入れ、次

          カスハラ野郎、再び

          日本人は温暖化に負けつつある、のかも

          夏らしくゾッとする話を。怪談よろしく、眉に少し唾をつけて読んでもらいたい。 仕事の調べ物をしていて衝撃的な資料に出くわした。フランスの世論調査会社イプソスが2024年4月に公表した報告書「アースデイ2024 気候変動に関する世論」。世界33カ国で実施した、温暖化対策に対する意識調査の結果である。色々な意見に対して、それぞれの国の人々が、どの程度同意するかを調べて列挙した資料だ。 ざっとめくると、日本人の賛同率が対象国中で最低の意見が驚くほどたくさんある。 かいつまんで並

          日本人は温暖化に負けつつある、のかも

          カスハラ野郎の言い訳

          もし今この瞬間、カスタマーサービスに電話がつながったとしたら、自分は怒りを抑え切れないだろう。最初は冷静に事情を説明し、なるべく感情を表に出さないよう自制する。けれどそのうち口吻が強張り、言葉に震えが混じるのを自覚して、妙に慇懃な相手の応対が癇に障った瞬間、それはきっと爆発する。理性はもろくも決壊し、溜まりに溜まった鬱憤が噴き出すのである。 一昨々日の晩にKindle版の書籍を大量に購入した。「12冊買うと12%ポイント付与」というキャンペーンの口車にいつもながら乗せられ、

          カスハラ野郎の言い訳

          エビデンスは嫌い、でも形而上学や蓋然性や形相や質料も嫌い

          エビデンスが嫌いである。と書くのはまさに「釣り(phishing)」であって、より正確に書くと、「エビデンス」というカタカナ5文字の表現が嫌いなのである。 なぜなら、英語をカタカナで表したりせずとも「証拠」と書けば済むからだ。そっちの方が誰でもわかるし、文字数も音読しても短い。不用意な外来語は避け、できるだけ短い言葉で書くように訓練された身には、ごく自然な選択である。 ところが最近では、公的な文書から新聞や雑誌に至るまで「エビデンス」だらけだ。 もちろんエビデンスは大事

          エビデンスは嫌い、でも形而上学や蓋然性や形相や質料も嫌い

          途切れたLINE

          そう言えば、最近どうしているのか。しばらく投稿を見ないことに気づいて検索してみた。ところが、どう探しても見つからない。どうもアカウント自体なくなっているらしい。 気に掛かってLINEを立ち上げた。案の定、友だちリストに名前がない。やり取りの履歴も綺麗さっぱり消えている。 電話番号やメールアドレスはまだある。ただしどちらも10年以上前の記録で、恐らくもうつながらない。 あるのが当然と思っていた連絡手段が、唐突に失われる。あんまりない経験で、少し動揺した。 つてを辿ればき

          途切れたLINE

          Apple Intelligenceの先にある、人と機械の新世界

          スティーブ・ジョブズだったらだいぶ違ったはずだ。「Knowledge Navigator」なんて過去の亡霊、しかも宿敵スカリーのアイデアを軽やかに乗り越えて、寝ぼけ眼をひん剥くようなビジョンを見せてくれたんじゃないか。 そう、Apple Intelligenceのことである。既に旧聞に属していそうだが、色々あってようやく出た原稿をきっかけに、四方山話を気の向くままに残してみたい。 個人的には、時代を画する発表だったと感じている。それこそiPhoneの時のように。あの時もA

          Apple Intelligenceの先にある、人と機械の新世界

          百年の孤独の所有欲

          『百年の孤独』がベストセラーになっている。文庫本になったかららしい。自分も大ファンである。確か3冊目のはずと思いつつ買おうとして愕然とした。Kindle版がないのである。 一体これはどうしたことか。Amazonのレビューで星一つの人が書いていた。「出版社に言いたい!電子書籍が欲しい」。まさに我が意を得たりである。 レビューの人はどうやら手でページを捲ったりしにくい境遇にあるようだ。自分はそうではないが、それでも紙の本は基本買わないようにしている。なぜならば所有欲を満たした

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          映画興行というコミュニケーション手段の根本的な齟齬について

          大仰なタイトルですが、言いたいことはシンプルです。ざっくり書けば、映画の作り手側の意図と、現在の興行方式の間には、大きなミスマッチがあるのではないか。以下、作品のネタバレを含みそうなので、気をつけてお読みください。 『関心空間』を見ました。話題になっていることは承知していましたし、残酷な内容だとは何となくわかっていました。ただし、描かれる時代がいつで、事件が何で、主人公が誰なのかはよく知りませんでした。 鮮やかに切り取られた自然と広大な邸宅の懐で展開する一家の日常を、眠気

          映画興行というコミュニケーション手段の根本的な齟齬について

          もっとビターなレッスン

          これはもう記者失格か。 昔書いた記事を読み直して失望しました。AIの将来を展望する内容で、公開されたのは2022年10月。そう、「ChatGPT」が登場する1カ月前です。にもかかわらず、その後の爆発的なAIブームを全く予見できていなかったのです。 過去の仕事を掘り返したのは、別の記事を書くためでした。やはりAIの今後を整理する狙いの原稿だったので、前回のトーンを確認しようと思い立ったわけです。 振り返ると当時もAIは注目の的であり、ものすごい勢いで進歩を続け、いずれは人

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          壮大な7銘柄って…

          Magnificent Seven。日本語で言えば『荒野の七人』。血湧き肉躍る往年の西部劇映画である。『大脱走』のジョン・スタージェス監督、我が憧れのスティーブ・マックイーン、剃り上げた頭が眩しいユル・ブリンナー、「うーん、マンダム」チャールズ・ブロンソン……。スタッフもキャストも錚々たる顔ぶれだ。ストーリーはすっかり忘れてしまったが、『日曜洋画劇場』か何かで見た若かりし自分は、興奮し通しだったに違いない。何せ『七人の侍』のリメイクなんだから。 だから「壮大な7銘柄」と言わ

          壮大な7銘柄って…

          AIに絶対できないこと

          AIって過大評価されていないか。こちらの本を読んでいてそう感じました。 まだ生成A Iやら大規模言語モデル(LLM)が大きな話題を呼ぶ前の発行ですから、今よりずっとAIの能力が限られていたころの意見です。「ひょっとしたら10年以内にも」といった声さえある今日この頃と違い、汎用AIは多分まだ数十年できないだろうとも書かれています。 それでも、来るべきAIは恐ろしいものだと感じさせるに十分な表現が随所に現れます。第1章の見出しをいくつか拾ってみると、「人類より優れた超絶知能に

          AIに絶対できないこと

          現代思想への片思い(下)

          承前 「また重箱の隅を突いてら」と呆れないでほしい。好きなんだから、真剣である。些細ではなく大事な点だとも思っている。 気になる「あばた」をあらためて書けば、一読して「何で?」と首を捻る選択が僕の目を引くことである。 なぜ永井均氏は読者の関心を引くべき一文目に、すぐに反証が出そうな命題を選んだのであろうか。どうして飯田隆氏は、機械が人と見紛う言葉を発し始めた事実を抜きにして、言語とは何かを語れると判断したのであろうか。 確かに養老孟司氏の目の付け所は秀逸である。そこか

          現代思想への片思い(下)