後悔しない推し活〜小谷野栄一と中屋敷侑史から得る活力
ここ数年でよく聞くようになった「推し」。元々はアイドル界隈が使う言葉のイメージだったが、一気に市民権を得た。
わたしにとって推しは元気の源であり、「生きがい」そのもの。生活に彩りを与えてくれるだけでなく、辛い時は推しのコンテンツに没頭することで鬱を和らげている。推しのおかげで日本各地に赴いたり、推していなければ知らなかったカルチャーに触れたりと、人生に厚みを持たせてくれている。
小谷野栄一という神様
小学3年生のとき、好きなプロ野球選手が出来た。小谷野栄一、当時は北海道日本ハムファイターズに在籍していた。北海道在住のわたしはよくファイターズ戦をテレビで観ていて、その中でビビッと来たのが彼だった。そこからは試合観戦やTV出演を見漁り、ズブズブと沼にハマっていった。自室の部屋には応援グッズを飾り、生活の大部分が染まっていた。
彼は堅実な守備に至高の流し打ち、チャンスに強いバッターだった。そして何より、泥臭い選手だった。パニック障害を患いながらも、プロ野球の第一線で輝き続けていた。「小谷野も頑張っているのだから、わたしも頑張らなきゃ」と何度奮い立たされたかわからない。
2010年には打点王を獲得、ゴールデングラブ賞やベストナインにも選ばれるようになった。推しの活躍ぶりを見られるのはいつだって嬉しいもので、活力をいつももらっていた。
転機が訪れたのは2014年冬。ファイターズからFAでオリックス・バファローズに移籍した。本当にショックだった。最後までファイターズにいてくれるものだとばかり思っていた。そして何より、簡単には見に行けなくなってしまった。わたしは札幌ドームまで片道3時間半かかる場所に住んでいて、ドームでさえ年に数試合しか見れていなかった。バファローズの本拠地は大阪。絶望した。当時、高校に行けず鬱を拗らせていたわたしの、唯一の希望が遠ざかってしまったように感じた。
2015年からバファローズに在籍し、2018年に引退。16年間の現役生活に幕を閉じた。当時大学生だったわたしは結局、移籍後に大阪へ彼の勇姿を見に行くことは一度も出来なかった。
その後はコーチとして現在までユニホームを着続けている。コーチとしての姿は何度か生で観ているものの、やはり選手としての姿が見たかった。当時のわたしにはどうしようもできなかったけれど、後悔は重く心に積もっていた。
中屋敷侑史という身近なヒーロー
大学卒業後、就職のために北海道苫小牧市に引っ越した。苫小牧は紙とアイスホッケーの街。ティッシュのネピアなどを作っている王子製紙の工場が街の中心部にあり、同工場のアイスホッケー部からクラブチーム化した「レッドイーグルス北海道」というチームが本拠地を置いている。
初めてアイスホッケーを見たのは2021年3月、「王子イーグルス」としての最終戦だった。せっかく苫小牧に引っ越したし、スポーツ観戦も好きなので一度観ておこうと思い足を運んだら、選手たちの「本気」がそこにあった。激しい身体のぶつかり合いやスピード感あふれる攻防、スケートの刃が氷を削る音。虜になるのに時間はかからなかった。中でもビックサイズのFW・中屋敷侑史が輝いて見えた。日本代表にもずっと選出されている選手だ。
翌シーズンから「レッドイーグルス北海道」として生まれ変わった。シーズン中盤からではあるものの、何度も試合に足を運んで彼を応援した。プロ野球などに比べるとマイナーなアイスホッケー、選手が顔を覚えてくれた。これまでの推しではあまりない経験だった。
2022-23シーズンは仕事でチームに関わることになり、ファンとはまた違う目線で彼を見ていた。恵まれた体格から振り抜く強烈なシュートはもちろん、明るい性格もファンの心を鷲掴みにしていた。同シーズンはリーグの得点王まであと一歩、という活躍ぶりを見せた。
2023-24シーズン、苫小牧開催の試合はほとんど見に行った。八戸や新横浜まで遠征もした。大概見に行く試合で彼はゴールを決めていて、流石だなぁといつも心を熱くしていた。
今年6月、中屋敷のDVと不倫を報じるニュースが流れた。そのままレッドイーグルスを退団し、アイスホッケーから遠ざかった。応援できるのが当たり前じゃないことを、久しぶりに痛感した瞬間だった。
しかし今月、プロチーム「名古屋オルクス」への入団が決定。9/28の名古屋市での試合に出場すると聞き、すぐさま駆けつけた。今なら遠征するお金も、時間もある。
半年ぶりに見た彼は元気そうで、楽しそうにアイスホッケーをしていた。わたしはそれが何よりも嬉しかった。彼のしたことを肯定するつもりはないけれど、彼がアイスホッケーをしている姿からいつも日々の活力をもらっていたから。生きがいがまた、リンクに戻ってきてくれた。
推しは推せるときに推せ
場所は変われど、応援できる場所に彼がいてくれる限りはどこにでも応援しに行きたいと心から思った。小谷野の時に行けなかった後悔を、中屋敷ではしないように。もちろん可能な範囲でだけれど、現地で直接プレーを見続けたい所存だ。
あなたもどうぞ、後悔しない推し活を。